artscapeレビュー
せんだいデザインリーグ2012 卒業設計日本一決定戦
2012年04月15日号
会期:2012/03/05
せんだいメディアテーク、東北大学百周年記念会館川内萩ホール[宮城県]
今年の卒業設計日本一決定戦では、仙台に来てから初めて、予選からファイナルに至るすべての段階で審査を担当しなかったが、結果的によかったと思う。東北大の五十嵐研の卒計は、研究室が始まって以来の最強の布陣となり、大活躍したからである。まず予選では、6人のうち4人(松井一哲、曽良あかり、三浦和徳、伊藤幹)が100選に入っている。もっとも、ここからもれた関谷拓巳によるサドの小説『ソドム120日』の建築化も、椚座基道の国会議事堂に複数の直方体が突き刺さる作品も、相当にユニークだった。建築棟が大破し、十分な教育環境がないと同時に、普段以上に負荷がかかるなか(引越や海外巡回展、学科60周年記念など)、震災の年に不思議なめぐり合わせとなった。
研究室からは3人がファイナルに進出している。さらに日本一となった今泉絵里花も加えると、東北大から4人も残った。今年10回目を迎える卒計日本一だが、筆者の記憶では過去9回にファイナルにまで東北大が残ったのは、2人くらいしかいない。うちひとりは2008年の五十嵐研の鈴木茜で、卒計ではベスト10止まりだったが、その2年後、東京ケンチクコレクションでは最優秀を獲得した。ともあれ、これまでも完全にばらばらにファイナルに残るというより、京都大学がまとめて3人くらい入ったり、理科大が2人、日本大学が2人、芝浦工大が2人という風に、年度によって同じ大学がかぶる傾向が認められる。やはり同学年に勢いがあるときとそうでないときが存在するからだろう。
卒計日本一は審査委員長の伊東豊雄の関心が強いことから、震災関係のプロジェクトが議論の中心となり、津波で流された家を模型を使いながら復元する、松井の「記憶の器」は日本二になった。東京に戻る最終新幹線で、ファイナルの審査員を担当した伊東、塚本由晴、コメンテータの竹内昌義らと一緒になり、「記憶の器」について議論が続く。おそらく、この案自体が記憶に残る、2位になったのだろう。あまり語られていないが、これは「卒計」批判の作品でもある。学生が実現しない絵空事を設計するよりも、実在する誰かを喜ばせることができる模型を制作したからだ。
写真:上=松井一哲、中=三浦和徳、下=伊藤幹
2012/03/05(月)(五十嵐太郎)