artscapeレビュー
前田紀貞 建築サロン TENZO
2010年04月15日号
会期:2010/03/14
TENZO[東京都]
建築設計事務所の半分を改装して、バーにしてしまう。こんな意表をついたことを、建築家の前田紀貞は行なった。実際、バーテンの経験のある所員がそこで働く。天井高約4m。多くの建築模型と写真、書物、そして前田の誇るオートバイ(カワサキZ2)などが、空間を彩っている。「典座」(TENZO)とは、禅宗における炊事係を指し、単なる裏方ではなく、非常に重要な役職なのだという。前田は「炊事こそ人間の一切の“素”を計らうこと」であるといい、建築も炊事もその意味で同じだという。つまり、このバーは炊事と建築を同時に提供する空間なのである。前田は最近ブログで書いた草食系建築家批判が話題になったが、これほど男気のある建築家を僕はほかに知らない。建築系ラジオの討議をこの場所でしたいという依頼を快諾していただき、3月にこの場所で前田氏を含めて2010年代の建築を語る討議を行った。草食化され、幼児化されているという現在の建築界に対し、男を磨かなければ、そして女を磨かなければ、よい建築はつくれないという前田の発言は、いま失われつつある何かを的確に指摘していたかもしれない。
2010/03/14(日)(松田達)