2020年07月01日号
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artscapeレビュー

鈴木貴博「生きろ」

2012年10月01日号

会期:2012/08/27~2012/09/01

ギャラリー現[東京都]

会場の床一面に広がっていたのは、規則正しく配置された和紙の束。表面には「生きろ」という文字が連続して書かれている。会場の一角には机に向かった鈴木本人が筆を振るっているから、展示物の一部をライブで制作しているのだろう。和紙の塊が、「生きろ」というメッセージにかけた鈴木の熱意を如実に物語っている。ただ、鈴木の作品がおもしろいのは、その和紙の束の物量によってメッセージを効果的に伝えるというより、むしろ文字を連続して書き続けるうちに、次第に文字の外形が崩れていき、その独特の文字の形態が意味伝達の機能を上回っているように見受けられるところにある。「生きろ」と読めなくはないが、一見すると象形文字のようにも見える。意味を伝達する機能が損なわれている点では、文字としては失格なのかもしれない。しかし、その崩れた文字のかたちが、逆に「生きろ」という意味を伝達することへの並々ならぬ気迫を表わしていると考えられなくもない。反復的なパフォーマンスが示しているのは、そのようにして文字の外形を内側から食い破るほど遮二無二込められた鈴木の思いにほかならない。

2012/08/31(金)(福住廉)

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