artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ザ・タワー──都市と塔のものがたり

会期:2012/02/21~2012/05/06

江戸東京博物館[東京都]

高所恐怖症にもかかわらず高いところに上ったり見下ろしたりするのが大好き、という心理は自分でもよく理解できないが、とりあえず新しい街を訪れたらいちばん高いところに上ってあたりを睥睨することにしている私にとって、この展覧会はとても興味深いものだった。まず、アタナシウス・キルヒャーによる「バベルの塔」の図から展示が始まっていて、趣味のよさを感じさせる。が、あとはエッフェル塔、浅草凌雲閣(十二階)、通天閣、東京タワーの4つを中心とした展示で、なにかものたりない。なにがものたりないんだと思ったら、いまはなきWTCも最新のブルジュ・ハリファも出てないからだ。もちろんこのふたつは超高層ビルであってタワーではないのだから、出てなくても不思議はないのだが、でも砂漠に屹立するブルジュ・ハリファの姿はバベルの塔そのものだろ(ドバイのバブルの塔でもあった)。話が飛んだ。元に戻すと、物件としてはものたりなさを感じるけど、内容的には十分満足のいくものだった。とくにエッフェル塔のあの形態がどのように発想されたかを伝える初期のドローイングや、次の万博(1900)のために考えられたエッフェル塔改造計画、描く人によって微妙に異なる凌雲閣の先細り度、東京タワー建設中の写真や完成まもないころの展望台から眺めた風景写真など、興味深い展示が多い。で、最後はもちろんこの5月に開業する東京スカイツリーの紹介。

2012/02/20(月)(村田真)

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プレビュー:陶芸の魅力×アートのドキドキ

会期:2012/03/03~2012/07/06

滋賀県立陶芸の森 陶芸館[滋賀県]

画家や彫刻家など、陶芸の専門家ではないアーティストがつくり出した陶芸作品を通して、陶芸とアートの関係や現代陶芸の一断面を紹介する。ミロ、ピカソ、岡本太郎、横尾忠則、舟越桂、日比野克彦、奈良美智など、陶芸に挑戦したアーティストの作品と、ピーター・ヴォーコス、金子潤、グレイソン・ペリー、八木一夫、鯉江良二ら陶芸とアートの狭間を行く作家たちの作品の2部構成となる。

2012/02/20(月)(小吹隆文)

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プレビュー:新鋭各賞受賞作家展「New Contemporaries」

会期:2012/03/03~2012/03/25

京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA[京都府]

国立国際美術館主任研究員の中井康之をゲストキュレーターに招いた企画展。「1990年代以降の絵画に見られた具象的傾向や、マンガ的・アニメ的イメージの多用(あるいは濫用)の後、特定のバイアスから自由な真の表現をどこに見出せばよいのか」がテーマとなっている。出品作家は、樫木知子、手塚愛子、中山玲佳、三瀬夏之介、三宅砂織ら京都市立芸大出身の10名。彼らの作品から一定の傾向を読み取るのは難しそうだが、多様な作品が集結することでなんらかの解が見出せるかもしれない。

2012/02/20(月)(小吹隆文)

プレビュー:ようこそ!サン・チャイルド

会期:2012/03/11

阪急南茨木駅前(南側)[大阪府]

大阪府茨木市の阪急南茨木駅前に、ヤノベケンジのモニュメント《サン・チャイルド》が設置され、その除幕式とセレモニーが開催される。《サン・チャイルド》の外見はヤノベの過去の代表作である《アトムスーツ》や《トらやん》と類似しており、顔はつぶらな瞳と長いまつげを持った子どもである。高さ6.2メートルと巨大で、ヘルメットを脱いだポーズを取っている。つまり《サン・チャイルド》は、防護服がなくても生きていける世界を希求し、敢然と前を向いて立ちあがる人々に向けた再生・復興のシンボルを意味しているのだ。当日は上記セレモニーのほか、ヤノベによるスピーチ、ワークショップ、サン・チャイルドそっくりさんコンテスト、ミニライブなどのイベントが催され、沿道には屋台も並ぶ。誰でも自由に参加できるので、1日限りのお祭り感覚で楽しみたい。

2012/02/20(月)(小吹隆文)

project N 48 佐藤翠

会期:2012/01/14~2012/03/25

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

難波田史男とオペラシティのコレクションを見た後でここにたどりつくと、20世紀と21世紀の日本の絵画がどれほど変わったかを実感できる。クローゼットやシューズラックは以前からのモチーフだが、とくにシューズラックの正面から見た構図と靴の配置、藤色を主体とした絶妙な色彩、地と図のせめぎ合いなどはすばらしいというほかない。もっと驚いたのは、木枠に張らない綿布に装飾的な抽象パターンを描いた作品。これはなにかと思ったらカーペットではないか。織物のカーペットを綿布に描くという自己言及的な行為もさることながら(これは具象か抽象か)、複雑に入り組んだペルシャ絨毯の文様を薄く溶いた絵具でホイホイこなしていく(という形容もなんだが)度胸とセンスには舌を巻く。木枠に張ってないのはこれが「カーペット」だからだが、なかでも1辺2メートルを超す正方形の作品はパリ滞在中につくったものなので、運搬しやすいように綿布のままにしたらしい。だとすればこの絵は、絵画の内容と形式と制作の条件がすべて一致したところで成り立っていることになる。史男くんには悪いが、もうこれだけで見に来た甲斐があったというものだ。

2012/02/19(日)(村田真)