artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ワンダーシード2012

会期:2012/02/04~2012/02/26
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
若手アーティストによる10号以下の小品の展示即売会。4~5年前のプチバブルのころはオープン後まもなく完売していたもんだが、今年は会期終盤なのに半分程度しか売れてない。でも最初のころはもっと売れてなかった気がする。たかだか10年なのに盛衰が激しくね? ちょっとよさげなアーティストをピックアップしてみると、熊野海、木下令子、椿崎千里、鈴木寛人、松本奈央子、原田悠子あたり。ほとんど女性だ。名前だけじゃわからないだろうけど、これらの作品に共通するのは「ペインティング」だということ。てか、それ以外の大半の作品はマンガかイラストで、絵画にすらなってない。
2012/02/22(水)(村田真)
The Emerging Photography Artist 2012 新進気鋭のアート写真家展

会期:2012/02/21~2012/03/04
インスタイル・フォトグラフィー・センター[東京都]
2010年に写真専門ギャラリーのディーラーを中心に発足したジャパン・フォトグラフィー・アート・ディーラーズ・ソサイエティー(JPADS)は、これまで何度かアート写真のフェアを開催してきた。クオリティの高い作品が多かったのだが、有名写真家の作品だとかなり値段は高めになる。そこで、写真学校に在学中、あるいは卒業したばかりの若手写真家を中心に開催することになったのが、今回の「新進気鋭のアート写真家展」である。このような試みは、顧客の幅を広げていくという意味でなかなかいい企画だと思う。あの手この手で、この不況の時期を乗り切っていくことが求められているからだ。
今回はディーラーのほかに、写真ワークショップの主宰者や写真教育機関に属する先生たちを推薦者として委嘱し、16名の写真家が選ばれている。推薦者は福川芳郎(ブリッツ・ギャラリー)、北山由紀雄(岡山県立大学)、圓井義典(東京工芸大学)、松本路子(写真家)、斎藤俊介(キュレーター)、高橋則英(日本大学芸術学部)、山崎信(フォトクラシック)の7名。彼らが選んだのは安達完恭、相星哲也、青木大、イワナミクミコ、市川健太、石川和人、川島崇志、岸剛史、小林信子、新居康子、西村満、斎藤安佐子、酒井成美、佐藤寧、鈴木ゆりあ、高畑彩である。川島や酒井の映像処理のセンスのよさ、斎藤や佐藤の緻密な画面構築、高畑のナイーブな感性など、可能性を感じる作品が多かった。だが、総じてまとまりがよすぎて、はみ出していくパワーを感じられない。ぜひ何度か続けてほしいのだが、「アート写真」の枠組みにおさまりにくい作品もあえて選んでおかないと、こぢんまりした紹介展で終わってしまいそうな気がする。
2012/02/22(水)(飯沢耕太郎)
正木康子 展

会期:2012/02/21~2012/02/26
ギャラリーヒルゲート[京都府]
画廊の2フロアで水墨画の個展を開催。1階は《枯蓮連綿》シリーズの大作が中心で、絡み合う蓮の枝葉と湿潤な大気が尋常ではない妖気を放っていた。素材は、面相筆、茶墨、中国宣紙で、薄い層を何度も塗り重ねて空間の厚みと広がりをつくり出している。2階は彼女が蓮と出合う前に取り組んでいた作品で、墨と鉛筆による抽象的な画風が特徴である。圧巻はやはり1階で、横幅約5メートルの大作や、天地約4メートルの大作が所狭しと並んでいた。全体でひとつの世界観を表わしているせいか、まるで自分が絵の世界に入り込んでしまったかのような錯覚を覚えるほどだった。
2012/02/21(火)(小吹隆文)
大西伸明 展 THROUGH

会期:2012/02/18~2012/03/17
ギャラリーノマル[大阪府]
日用品や工業製品、木や骨などの自然物をかたどり、その表層をトレースした立体作品で知られている大西伸明。本展では、彼が新たに考案した「スループリンティング」という技法で制作された新作が発表された。この技法はシルクスクリーンとステンシルの要素を併せ持っており、映像を版にして精密に図像を再現しつつ、その一部がまるで砂塵のようにぼやけている不思議なものだ。大西自身も確かな手応えを感じているようなので、今後この新技法がどのように変化・洗練されていくのか興味が尽きない。
2012/02/20(月)(小吹隆文)
RYUGU IS OVER!!──竜宮美術旅館は終わります

会期:2012/02/17~2012/03/18
竜宮美術旅館[神奈川県]
ラブホ、というより連れ込み旅館というにふさわしい昔ながらのたたずまいを誇る竜宮美術旅館。この3月、日ノ出町駅前再開発のため取り壊されるこの珍妙な建築全館を使って、10人以上の若手アーティストがインスタレーションを繰り広げた。キュレーターはサラリーマンコレクターとして知られる宮津大輔氏。取り壊しを待つ建物での展覧会というのは、たいてい現状復帰しないでもいいことが多いためやり放題できて楽しいものだ。ゴードン・マッタ・クラークやPHスタジオは解体前の家を真っ二つにしたし、遠藤利克は同潤会アパートで水道を出しっぱなしにして部屋を水浸しにしたものだ。最近の若いアーティストはそこまではしない。お行儀がいいというか、ハデなインスタレーションを避けたがるというか。絵や彫刻みたいなブツとしての作品にこだわる面もあるんだろう。例外は丹羽良徳と狩野哲郎だ。丹羽はこれまで物置として使われていた開かずの間にビデオを展示。Mくんの部屋みたいに雑然とした薄暗い空間に、3台のモニターが妖しい光を放つ。そのビデオも、キオスクで買った雑誌を本屋に持ち込んでもういちど購入するという挑発的なもの。内容も場所も自閉的・変態的でとてもいい。狩野は部屋の窓を開け放ち、畳を一部はがして植物やロープやホースなどを張り巡らしている。寒風の吹き込む部屋は内とも外ともつかぬ開放空間になっていた。あとは、いつもコーヒーの香り漂うキッチンの壁にコーヒー液で描いた浅井裕介のドローイング、色鉛筆を固めて削った彫刻を玄関の把手にすり替えた八木貴史のインスタレーション、その上のガラス窓に真っ赤な金魚を泳がせた志村信裕の映像などがすんばらしい。それにしても取り壊されるのは惜しい建物だ。
2012/02/20(月)(村田真)


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