artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

難波田史男の15年

会期:2012/01/14~2012/03/25

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

難波田史男は1974年に32歳の若さで夭逝した画家。同展には10代の終わりから晩年まで約240点が展示されている。ざっと見て気がつくのは、最初期を除いてスタイルがほとんど変わらなかったこと。もちろんわずかながら変化は見られるものの、基本的に紙にインクと水彩でクレーのできそこないみたいな半抽象画を10年以上描き続けた。それがわからない。20代という多感でエネルギッシュな年代に、延々と紙に似たり寄ったりの絵をチョロチョロと描き続ける意図が理解できない。端的にいえば、なぜキャンヴァスに油絵を描かなかったのかということだ。別に油絵のほうがエライとはいわないが、少なくとも吹けば飛ぶようなペラペラの紙より恒久性があり、確固とした存在感があるのはたしかだろう。紙しか選択肢がなかったなら話は別だが、家庭的にもごく身近に油彩の画材はあったはず。あ、だからなのか。ごく身近に超えられない油彩画家がいたから、自分は同じ道を回避してあえて脆弱な素材にこだわったのか。だとしたら相当の屈折と葛藤があったに違いない。階上のコレクション展をのぞくと、ここにも史男の絵が3点かけられているのだが、その横にはオヤジ龍起の硬質なマチエールの抽象画も並んでいる。両者を見比べてみると、物質的にも構造的にも強度の違いは明らかだ。

2012/02/19(日)(村田真)

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石子順造的世界──美術発・マンガ経由・キッチュ行

会期:2011/12/10~2012/02/26

府中市美術館[東京都]

60~70年代に美術だけでなく漫画やキッチュといったサブカルチャー批評にも手を広げ、オタクやネオポップの蔓延した近年、再び注目を集めている石子順造(1928-77)にスポットを当てた展覧会。会場は「美術」「マンガ」「キッチュ」の3つに分かれ、まず「美術」は、池田龍雄、赤瀬川原平、横尾忠則ら石子が評価した作家の作品と、1968年に中原佑介とともに企画に加わった「トリックス・アンド・ヴィジョン展」の再現から成り立っている。とくに「トリックス・アンド・ヴィジョン展」はいまや伝説的な展覧会といわれ、意外な作家の意外な作品も出ていて、よく集めたもんだと感心する。次の「マンガ」は一室全体がつげ義春の「ねじ式」の原画展示にあてがわれ、隣室で当時のほかの劇画も紹介してはいるものの、漫画といえばあたかも「ねじ式」が代表といわんばかりの扱いだ。つげ義春や「ねじ式」を知らない者はなにごとかと思うだろう。ちなみに「トリックス・アンド・ヴィジョン」も「ねじ式」も1968年の事象。最後の「キッチュ」は、銭湯のペンキ絵やエナメル板の広告、造花や花輪、モナリザや1万円札の模造品、食品サンプル、大漁旗といったポップな品々を集めていて、時代を超えて楽しめるのはここだろう。サブタイトルには「美術発・マンガ経由・キッチュ行」とあり、美術はキッチュという最終到達地に行きつくための出発点にすぎないとも読めるが、それもいまとなっては納得できる。

2012/02/19(日)(村田真)

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水内義人個展「インスタントメン(固め)~腹八分目へ~」

会期:2012/01/28~2012/02/18

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

パフォーマンスや立体作品、インスタレーションなど多様な表現活動を行なっている水内義人。これまで見たことのある作品は、美しいとか綺麗という言葉からはすべてかけ離れていたが今回もまた不条理とナンセンスの炸裂といった会場だった。ノイズ音が鳴り響く薄暗い空間にスーツやワンピース、セーターなどの衣類が立て掛けられ密集しているのだが、私が訪れた最終日は“グロージングバーディ一”(クロージングパーティとは少し異なる)だったようで、コーディネイトされたたくさんの服装に、会期中の芳名録に記帳された来場者の名前(?)を書いたA4サイズの紙が貼られていた。古い服の独特の匂いにも包まれた空間で、見る人によっては拒絶してしまいそうな作品。つい私も「意味が解らん」と口に出してしまったが、そこで思わず笑ってしまうから悔しい。極めてバカバカしく、チャーミングなのだ。

2012/02/18(土)(酒井千穂)

ヤマダヒデキ

会期:2012/02/06~2012/02/18

gallery wks.[大阪府]

ギャラリーのドアを開けると正面の壁に、花びらや女性の身体の一部を撮影した小さなサイズの写真が十数点展示されていた。よく見るとそれらには、ところどころにひとつか二つ、黒い墨かインクを落としたようなスポットがついている。次に、会場のもっとも広い壁面に、色鮮やかなバラやガーベラなどの花を大きく引きのばした写真が一点。こちらにはどの花にも黒いスポットが無数についていた。圧倒的な迫力も感じられる、美しさと汚れが混在するようなイメージだ。さらにそれに対面する壁には、裸の女性が横たわる写真。こちらは人形かロボットか、どちらかというと無機質な印象だ。作家の死生観を孕んだ「美しさ」のメタファーを、時間軸をふまえて空間ごと表現していた個展。テーマは解り易いがそれぞれの写真自体も美しく、制作の技法や作品の細部などエレメントのこだわりも興味深かった。

2012/02/18(土)(酒井千穂)

本田征爾 展──目眩く(めくるめく)

会期:2012/02/06~2012/02/18

乙画廊[大阪府]

札幌市在住のアーティスト、本田征爾の個展。近年、同ギャラリーで毎年この寒い時季に個展を開催している。まぐろ調査船に乗船し、海上と陸上の両方の生活をしていた作家で、これまでは、船上で描いた透明水彩のドローイングやアクリル画なども発表していたが、最近は調査船には乗船していないとのことで、今回は陸上生活で描いた作品の展示。会場にはバクや鳥、きのこ、昆虫などの生き物をモチーフにした小さなオブジェもたくさん展示されていた。見たことのない“ヘンテコリン”な生き物のモチーフこそ減ったが、儚い浮遊感と神秘的な透明感など、その作風はむしろ幻想性が強まった印象で今回も想像が掻き立てられてやまない。挿絵つきの小さな詩集がとても良く、こちらでも物語いっぱいの世界が楽しめた。すでに来年が待ち通しい。

2012/02/18(土)(酒井千穂)