artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

千代田芸術祭2011

会期:2011/09/03~2011/09/19

3331 Arts Chiyoda[東京都]

3331 Arts Chiyodaによる芸術祭。今回は展示部門の「3331アンデパンダン」のほかに、ステージ部門とマーケット部門が加わって規模が大きくなった。展示部門に出品されたのは300点あまり。床から壁面の隅々まで、所狭しと作品が展示された光景は圧巻だ。とりわけ際立っていたのは、Hi! LEGによる《有名になりたいプロジェクト》。映画のチラシをシミュレーションした作品で、登場人物に扮して撮影した写真をもとに本物そっくりのチラシに加工して、偽物と本物をあわせていくつも展示した。おもしろいのは、シミュレーションを集団性によって行なっていることと、その完成度を(おそらくは)あえて求めていない(ように見える)こと。ふつう、なりきりポートレイトといえば、森村泰昌にしろ澤田知子にしろ、ほとんど単独性によって成立しているが、ユニットのHi! LEGは複数の人物が共同で取り組んでおり、しかも特定のメンバーにスポットライトが当てられるということもない。言い換えれば、シミュレーションを実行しつつも、模倣を極限化するのではなく、むしろシミュレーションによって本来の華のなさを逆に浮き彫りにしようとしているかのようだ。律儀に本物と並置することで、偽物のまがまがしさを強調しているのは、彼らのシミュレーションが文字どおりのシミュレーションではないことを如実に物語っている。スターや女優を気取ってオンリーワンを嘯くのではなく、どこまでも庶民の自分を肯定しようとする健全な心意気が感じられた。アンデパンダンの時代ならではの作品である。

2011/09/14(水)(福住廉)

モーリス・ドニ──いのちの輝き、子どものいる風景

会期:2011/09/10~2011/11/13

損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]

ドニというとゴーガンの下に集まったナビ派の主要メンバーであり、装飾的な画面で知られる一方で、敬虔なクリスチャンとして聖書や神話を主題にした宗教画を残した画家でもある。とりわけモダニストにとって重要なのは、「タブローとはヌードや風景である以前に色彩におおわれた平面である」といった主旨の彼の言葉であり、ここから形式(フォーム)を重視するフォーマリスティックな抽象表現が導かれていくことになった。だが、そんな美術の基礎知識をもって同展を訪れると肩すかしを食らう。描かれているのは神でもヌードでもなく、自分の子どもをはじめとする家族の肖像だからだ。あれれ?と思ってチラシを見ると、サブタイトルは「いのちの輝き、子どものいる風景」。なるほど、日本でのドニの知名度の低さを考えれば妥当なテーマ設定かもしれない。「装飾」とか「信仰」とか、ましてや「平面性」などでは人は入らないからね。

2011/09/13(火)(村田真)

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引込線 所沢ビエンナーレ2011

会期:2011/08/27~2011/09/18

所沢市生涯学習推進センター、旧所沢市立第2学校給食センター[埼玉県]

3回目を迎えた「引込線」。会場をこれまでの西武鉄道旧所沢車両工場から所沢市生涯学習センターと旧所沢市第2学校給食センターに移し、参加作家の選考も実行委員会による合議制から4人の美術家(伊藤誠、海老塚耕一、遠藤利克、岡崎乾二郎)による責任選考制に切り替えられた。そして、何より「文化庁主催事業」というお墨付きが加えられたところに、今回のもっとも大きな特徴がある。ただし、この展覧会がこれまでそうだったように、今回も作品の質より空間の魅力が際立っており、とりわけ給食センターはそれ自体が見事な造形美を誇っていた。その反面、生涯学習センターの会場は体育館の茫洋とした空間に作品が埋没していたが、同会場内のプールに設置された遠藤利克の作品だけは、例外的にその場と調和していたように見えた。プールの広い空に打ち立てられた黒い木枠のインスタレーション。それは焼け野原に残された廃墟のようでもあり、遠景に垣間見える集合住宅の未来像を予見しているようでもある。3.11以後という第二の戦後を迎えた今、未来と過去を同時に幻視させる、きわめて霊性の強いインスタレーションである。

2011/09/13(火)(福住廉)

加賀城健 展

会期:2011/09/13~2011/09/25

ギャラリー揺[京都府]

染色工芸では失敗とされるブレやボケをあえて生かしたり、ドローイング、ペインティング、コラージュといった技法を大胆に導入して独自の染色作品を模索している加賀城健。今回は市販のテントを流用し、新たに張った布地にペインティングの要領で染めを施した作品と、伸子張りの情景からインスパイアされた作品を発表。どちらもピンと張った布地の美しさを強調した表現で、どれほど作品がアート寄りになっても、彼の出自が染色だと分かる内容となっている。また、加賀城とテントの関係は、彼が子どもの頃に景品で当たったテントを室内に張って遊んでいたことに由来するそうで、個人的な記憶をダイレクトに反映した作品を出品したのも本展の特徴である。

2011/09/13(火)(小吹隆文)

千代田芸術祭2011 展示部門「3331アンデパンダン」講評会

会期:2011/09/10~2011/09/11

3331 Arts Chiyoda[東京都]

千代田芸術祭2011の「3331アンデパンダン」展の講評を画家のO JUNさんとともに行なう。建築の場合は、敷地やプログラムからある程度、解答の基準を設定できるが、アートの作品は本当に幅広い。出展者とやりとりしながら、普段使わない頭脳を駆使して、なぜこの表現なのかを考えていく。五十嵐賞は、講評を担当した作品ではなかったが、岡崎京子の『ヘルタースケルター』の世界に入り込んだ山田はるかを選ぶ。ほかに最後まで悩んだ作家は、水戸部七絵、藤林悠、内田百合香、大庭彰恵、現代芸術最終兵器研究所だった。山田の作品は、最初に見たときは展示物を触ってはいけないと感じ、なぜ岡崎京子の漫画を置いてあるのか訝しく思い、二度目の訪問時にようやく開いた。そして執拗なまでに劇中の主人公になりきる作業に驚かされる。HPを参照すると、ジェンダーを軸にしたさまざまな制作をしており、さらなる展開の可能性を感じたことが、彼女を選んだ理由である。

2011/09/11(日)(五十嵐太郎)