artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

岡本信治郎 展「空襲25時」

会期:2011/08/09~2011/09/19

渋谷区立松濤美術館[東京都]

美術家・岡本信治郎の個展。1933年生まれで、60年代の反芸術の現場にも立ち会っていた画家だから回顧展というかたちでも展覧会は十分に成立するはずだが、近年盛んに取り組んでいる戦争絵画《空襲25時》のシリーズを一挙に展示したところに、画家としての気骨を大いに感じさせる好企画だ。その《空襲25時》は、情感を退けた機械的な線と鮮やかな色面によって構成された大作だが、随所に文字や記号をふんだんに取り入れているため、全体的な印象としてはタブローというより曼荼羅や絵図に近く、「見る快楽」より「読む楽しさ」が勝っているところに大きな特徴がある。事実、正直に言って、もっとも強く印象に残ったのは、展示には含まれていなかったが、会場に置かれたファイルに収録された絵本だった。癌を告知された娘と共同で制作された絵本に、岡本は絵を提供しているが、物語と組み合わさることで、その絵は自立した絵画の状態よりいっそう生き生きとしているように見えた。美術館や美術大学のなかにいまだに蔓延っているモダニズム絵画論とは別のところに絵の可能性が宿っていることを高らかに宣言する展覧会である。

2011/09/11(日)(福住廉)

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中島麦 悲しいほどお天気

会期:2011/09/09~2011/10/10

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

風景から着想した色鮮やかな抽象画で知られる中島麦。今回は画廊壁面に巨大な壁画を描くとともに、画廊壁面と同じ形(五角形)の小品を大量に展示した。壁画は未完成の状態で中断しており、最終日のライブペインティングで完成させる。また、会場には中島が今夏に東北地方を訪れた際に撮影したスチール写真をつなげた映像作品も展示されていた。そのなかには大震災の被災地の情景も含まれており、今回の個展を象徴する家型のフォルムも、ひょっとしたらその時の経験が影響しているのかもしれない。

2011/09/11(日)(小吹隆文)

伊東卓「ROOMS」

会期:2011/09/06~2011/09/11

SARP[宮城県]

仙台市青葉区にあるSARP(Sendai Artist-run Place)を舞台に毎年開催されている「仙台写真月間」。仙台市在住の写真家、小岩勉を中心としたメンバーが、質の高い展示を展開している。今回は8月23日から9月18日にかけて城田清弘「続 家の方へ」、茂木大作「家族になりました」、別府笑「sanitas」(この展示だけart room Enoma)、工藤彩子「LOX」、秋保桃子「灯す」、伊東卓「ROOMS」、花輪奈穂「L」、小岩勉「FLORA#2」、野寺亜季子「北風 はと 太陽」が開催された。仙台にしっかりと根ざした写真の鉱脈が形をとり始めているように感じる。
そのうち、たまたま見ることができた伊東卓の「ROOMS」がかなり面白かった。伊東の本業は建物のリフォームで、既に住人が移り住んでしまった住居を見る機会が多い。最初は写真を撮るつもりはなかったのだが、2年前にふと思いついて、その空き部屋のたたずまいにカメラを向けるようになった。今回の個展では、そうやって撮りためた写真の中から13点を選び、半切のプリントに引伸して並べている。家具を移動した後の壁や床に残るかすかな痕跡、染みや埃の堆積、磨き込まれた床の木目、貼り残された日本地図、置いておかれたままの車椅子──それらを淡々と撮影しているだけのモノクローム作品だが、寡黙なイメージがなぜか強く心を揺さぶる。むしろ写真のフレームの外側、今は不在になった住人たちの行方などに、想像力が広がっていくように感じるのだ。伊東は仕事柄、こういう部屋に出会う機会が多いということなので、さらに撮り続けて、よりスケールの大きなシリーズとしてまとめていってほしい。「痕跡学」とでもいうべき思考が、そこから芽生えていきそうな気もする。

2011/09/10(土)(飯沢耕太郎)

寺内曜子 展

会期:2011/08/29~2011/09/10

表参道画廊[東京都]

ギャラリーの壁のところどころに、さまざまなかたちに切り抜いたストライプ模様の布が貼ってある。はて、なんのかたちだろう? 国か都道府県か、どこか島の輪郭かとも思ったけど、該当する地形が思いつかないし、貼ってある場所にもかたちにも規則性があるわけでもない。いちどギャラリーの入口に戻ると、そのガラス面に同じストライプ模様の大きな布が貼ってあり、ところどころ穴があいていた。この大きな布をぐしゃぐしゃに丸めて一部をハサミで切り取り、その断片を壁に貼っていたのだ。ああ、やっぱり寺内曜子だ、と納得。彼女の作品を初めて見たのは30年近く前、ロンドンのギャラリーでだ。その後、かんらん舎といういまでは伝説的なギャラリーでも発表していたが、今回はおよそ20年ぶりの再見。基本コンセプトが当時とまったくといっていいほど変わっていなかったのがうれしい。このチャラいポストモダンの時代気分のなかで、揺らぐことなく一貫したコンセプトで制作を続けることの困難さを思う。

2011/09/10(土)(村田真)

和田真由子「ドローイングの絵」

会期:2011/09/10~2011/10/15

児玉画廊|京都[京都府]

最近、児玉画廊が熱心にプッシュしている新進作家の和田真由子。私も過去に何度か彼女の作品を見たことがあるが、頭のなかが疑問符で溢れるばかりだった。しかし、本展で「イメージにボディを与える」というキーワードを得て、微妙な厚みを持って平面と立体の間を彷徨う彼女独特の世界観にようやく近づけた気がする。なるほどこの人がやろうとしていることは興味深い。そして、一見粗雑にしか見えない作品の外観も、コンセプトを明瞭にするために必要だったことがわかった。今さらながら自分の作品理解力の低さを嘆きつつ、やっとしっぽを掴んだ新進作家の世界を、これからも注視していこうと思う。

2011/09/10(土)(小吹隆文)