artscapeレビュー
伊東卓「ROOMS」
2011年10月15日号
会期:2011/09/06~2011/09/11
SARP[宮城県]
仙台市青葉区にあるSARP(Sendai Artist-run Place)を舞台に毎年開催されている「仙台写真月間」。仙台市在住の写真家、小岩勉を中心としたメンバーが、質の高い展示を展開している。今回は8月23日から9月18日にかけて城田清弘「続 家の方へ」、茂木大作「家族になりました」、別府笑「sanitas」(この展示だけart room Enoma)、工藤彩子「LOX」、秋保桃子「灯す」、伊東卓「ROOMS」、花輪奈穂「L」、小岩勉「FLORA#2」、野寺亜季子「北風 はと 太陽」が開催された。仙台にしっかりと根ざした写真の鉱脈が形をとり始めているように感じる。
そのうち、たまたま見ることができた伊東卓の「ROOMS」がかなり面白かった。伊東の本業は建物のリフォームで、既に住人が移り住んでしまった住居を見る機会が多い。最初は写真を撮るつもりはなかったのだが、2年前にふと思いついて、その空き部屋のたたずまいにカメラを向けるようになった。今回の個展では、そうやって撮りためた写真の中から13点を選び、半切のプリントに引伸して並べている。家具を移動した後の壁や床に残るかすかな痕跡、染みや埃の堆積、磨き込まれた床の木目、貼り残された日本地図、置いておかれたままの車椅子──それらを淡々と撮影しているだけのモノクローム作品だが、寡黙なイメージがなぜか強く心を揺さぶる。むしろ写真のフレームの外側、今は不在になった住人たちの行方などに、想像力が広がっていくように感じるのだ。伊東は仕事柄、こういう部屋に出会う機会が多いということなので、さらに撮り続けて、よりスケールの大きなシリーズとしてまとめていってほしい。「痕跡学」とでもいうべき思考が、そこから芽生えていきそうな気もする。
2011/09/10(土)(飯沢耕太郎)