artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
森山大道「Record No.19 -Toscana-」

会期:2011/04/22~2011/05/29
BLD GALLERY[東京都]
森山大道の『記録』のシリーズがいつのまにか19冊目になっていることにちょっと驚いた。『記録』はその時々に偶発的に彼の前にあらわれてくる事象を、拾い集めるようにして撮影していくスナップショットのシリーズで、1972~73年に1~5号を刊行し、その後、長い間をおいて2006年の第6号から再び定期的に刊行されるようになった。ほぼ季刊のペースで既に10冊以上が刊行されており、最新刊が2011年4月に出た第19号である。その出版にあわせて、東京・銀座のBLD GALLERYでは個展も開催された。
森山にとってこのような小出版物は、自分の立ち位置を確認するとともに、大きな仕事への力を蓄えるウォーミングアップの意味を兼ねているのだろう。だがそれ以上に、自分の好きなものをさっと形にしていくこういう作業にこそ、このたぐいまれな嗅覚と動体視力を備えた天性のスナップシューターの力量が、はっきりとあらわれてくるともいえる。今回の「Toscana」のシリーズも、リラックスした雰囲気のなかに、締めるべきところはきりりと締めた見事な出来栄えである。
2010年9月、イタリアのモデナで開催された400点以上の自選作品による大回顧展のときに、モデナと「半日余りカメラを手に、あちこちの街区を撮り歩いた」フィレンツェで撮影したスナップを集成したものだが、街を覆っている装飾的な表層(ポスター、看板、仮面、建築物の外壁など)の処理が実に颯爽としていて決まっている。森山の写真のグラフィカルな魅力がよく発揮されているシリーズといえるだろう。そんな街並を縫うように、これまた颯爽と闊歩しているセクシーな「オネエサンたち」、そのかっこよさに口笛の一つも吹きたくなってくる。
2011/05/18(水)(飯沢耕太郎)
Chim↑Pom REAL TIMES
会期:2011/05/20~2011/05/25
無人島プロダクション[東京都]
時は1970年4月26日、場所は大阪万博の会場にそびえ立つ太陽の塔。その「金色の顔」に「万博粉砕」を訴えるひとりの男がよじ登り、その後8日間にわたって占拠した。のちに「目玉男」として知られるようになるこの男について、作者である岡本太郎は現場を訪れたうえで次のようなコメントを残している。「イカスね。ダンスでも踊ったらよかろうに」。「自分の作品がこういう形で汚されてもかまわない。聖なるものは常に汚されるという前提を持っているからね。金色の顔もその下の太陽の顔も無邪気な顔で怒っているよ」(『毎日新聞』大阪版1970年4月27日夕刊3面および11面)。太陽の塔が聖なるものかどうか、そして目玉男が穢れかどうかはさておき、ここで重要なのは岡本太郎が目玉男の篭城を直接的に非難するというより、むしろ楽しむ余裕を見せていることだ。岡本太郎は自分の作品が介入されたことを受け入れたのだ。それから41年後の2011年5月、渋谷駅に設置されている岡本太郎の《明日の神話》にChim↑Pomが福島第一原発の大事故を描いた絵を当てはめた。この件はマスメディアで大々的に報道されたが、その大半が「いたずら」や「落書き」として伝えるものであり、「芸術」として報じるものはほとんどなかった。なかには本展の会場である無人島プロダクションをわざわざ「活動拠点」と言い換えた報道番組もあり、シャッターを閉めた同画廊を映した映像をあわせて見ると、まるで過激派のようだ(JNNニュース、2011年5月18日、11:30~11:55)。だがChim↑Pomによる今回の表現行為は《明日の神話》を傷つけたわけではないのだから「落書き」ではないことは明らかだし、百歩譲って「いたずら」だとしても、実害のない表現行為を「いたずら」として断罪することなどできるはずもない。《明日の神話》の芸術的価値を汚したという見解もなくはないが、それにしても当の岡本太郎が介入を認めていたのだからまったく当てはまらない。むしろ空間の隙間を目ざとく見抜き、岡本太郎の稚拙なタッチを忠実に再現しながら、その欠落を充填することで、被曝をめぐる年代記を適切に更新したことは、リアルタイムの「今日の芸術」として高く評価するべきである。しかも、それが岡本太郎本人はもちろん、他のどんなアーティストにもなしえなかったという点を考えれば、建畠晢のように「これくらい許容される世の中のほうがいい」(『朝日新聞』2011年5月25日25面)とパターナリスティックな姿勢で応じたり、山下裕二のように「岡本太郎が生きていたら面白がるだろう」(同上)などと故人のキャラクターで補うだけではいかにも物足りない。《LEVEL7 feat.『明日の神話』》は放射能の時代を豊かに生きるための、これまでにないほど新しい記念碑である。それが新しいというのは、その完成形をもはや見ることができず、私たち自身の想像力によって再生してはじめて全貌を露にする記念碑だからだ。《明日の神話》の前を通るたびに、この記念碑は何度も甦るにちがいない。
2011/05/18(水)(福住廉)
松本秋則 展「Sound Scenes」

会期:2011/05/07~2011/05/16
ストライプハウスギャラリー[東京都]
ギャラリーには竹と紙によるたくさんのモビールが吊るされ、心地よい音を立てながらゆらゆら揺れている。と思ったら、音を出しているのはモビールではなく、これも竹でつくった音の出る装置。コンピュータなどを使わずタイマーで制御しているところに手づくり感があふれる。今回は窓側の仮設壁が除かれ、テラスに出られるようになっていて、その手すりにも釣り竿のようにしなる竿の先に風で音の鳴る装置をつけていた。六本木の喧噪から一歩入ったところに出現したオアシス。
2011/05/16(月)(村田真)
ムラギしマナヴ個展「AFRO BLUE──シギラム教授のおかしな世界II」

会期:2011/05/11~2011/05/15
トランスポップギャラリー[京都府]
昨年の個展には、アフリカのお面や人形など、プリミティブで呪術的なイメージのオブジェや段ボール製の作品がごちゃごちゃと展示されていていた。今展は「架空の民俗学者のコレクション」という設定で構成されたその個展の第二回目。個人のコレクションという物語自体も愉快なのだが、椅子や欠けた陶器など、生活廃品を素材に用いた作品はどれもユーモラスな表情で、チャーミングな毒っ気が感じられ、価格も安いのでつい欲しくなってしまう。壁にたくさん貼られていた《ナラの人》というシリーズのドローイングは100円。どこかで見たり聞いたりしたことのあるイメージを連想させるタイトルのセンスにも感心する。次回の発表の展開も楽しみだ。
2011/05/15(日)(酒井千穂)
西川茂 展「in between」

会期:2011/05/10~2011/05/29
neutron kyoto[京都府]
neutron kyotoでの最後の展覧会となった西川茂展。40cm×40cmの画面が縦横に並列する壁面は、それぞれに色彩が異なり、遠目にもそれらの構成によるグラデーションが美しいのだが、至近距離で見ると一枚ずつにトンボやヘリコプターが描かれているのが確認できる。これは《world》と題されたシリーズで、世界の国と地域の数、203を目指して描き続けている空なのだという。会場の奥には、画面の上下に描かれた異なる風景がひとつの空でつながっているというイメージの作品。過去の時間といま、離れた場所と場所をつなぎ、もっと遠い世界やまだ体験していない時間へと連想を掻き立てる広大無辺の空は、それらの境界についてもあれこれと思いを巡らせるものであり、これでひとつの時間の区切りをつけるneutronの活動にも重なるようだった。
2011/05/15(日)(酒井千穂)


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