artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

トーキョー・ストーリー2010

会期:2011/04/28~2011/06/26

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

TWSのクリエーター・イン・レジデンスに招聘されたり海外に派遣されたりしたアーティストの活動を、渋谷、本郷、青山の3カ所で紹介している。渋谷では下道基行とカールステン・ニコライの作品が秀逸。下道は、古本のシュリーマン『古代への情熱』と手塚治虫『ブラックジャック2』を合本させたり、夏目漱石や宮沢賢治らの文庫本の巻末にある略歴を継ぎはぎして『略歴集』を編んだりして、それを人から人へと手渡していく《旅をする本》と、アジア、ヨーロッパ、日本の各都市の屋外にある椅子を撮り集めた《そといす》というふたつのシリーズを出している。各地を旅するなかから編み出されたアートですね。カールステン・ニコライは、おっさんが飲料水の自販機にコインを入れると自販機が光を点滅させながらリズミカルな音を奏で、最後にボトルが出てくるというビデオを制作。おっさんが見た一瞬の夢みたいなファンタジックな映像だ。ヨーロッパには自販機は少ないから珍しいのかも。

2011/04/30(土)(村田真)

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《豊島美術館》

会期:2010/10/17

豊島美術館[香川県]

美術家・内藤礼と建築家・西沢立衛による美術館。直島の地中美術館や犬島の精錬所と同じように、建築と美術を一体化させたコミッション・ワークを見せる美術館だ。天井の低いシェル状の外観は周囲の棚田の風景と見事に調和し、内側に設えられた内藤礼による水滴の作品とも絶妙な相似形を描いていたことから、美術と建築が有機的に結合していたことはたしかである。ただし、この美術館の核心は都市型の美術館ではなしえない独自の機能にある。それは、来場者に作品を鑑賞させるというより、自然を体感させることだ。来場者は大きく開けられた2つの開口部から差し込む光と風の匂い、その先に広がる空の色、木々のさざめき、そして靴を脱いだ足の裏に冷気を感じ取る。つまり美術館で作品を鑑賞するようでいて、その実、美術館をとおしてそれを取り囲む自然環境を感じているのだ。一体化しているのは美術と建築だけでなく、双方を包み込む自然でもあるわけだ。これが豊かな自然を資源とする美術館ならではの特徴であることはまちがいない。ただし、電力を用いることなく、風雨に晒されるがままを見せるこの美術館は、脱原発の方向に進路を切り換えつつある現代社会の未来像を、期せずして先取りしているともいえるのではないだろうか。

2011/04/29(金)(福住廉)

市川孝典「FLOWERS」

会期:2011/04/28~2011/05/29

NADiff Gallery[東京都]

特異な才能というべきだろう。市川孝典はまさに「写真脳」の持ち主だ。たしかに、一度目にした場面を、そのままカメラのシャッターを押すように記憶することができる者がごく稀にいる。だが彼のように、幼年時代にまでさかのぼって、視覚的記憶をありありと再現できるというのは驚異的としかいいようがない。しかも、それらは「ふとしたときに勝手に甦る」のだという。それを何カ月もかけて「紙に映る」ところまで育てあげ、画像として定着していく。その画像再現のプロセスもまた、きわめて特異なものだ。彼が考案した「線香画」は、これまた誰にも真似ができないものだろう。「60種類の線香を、温度や太さなどで使い分け、一切の下書きなしに少しずつ紙を焦がしながら絵を描いて」いくのだ。微妙な陰翳を持つ焼け焦げによって形づくられるイメージは、やはりどこか写真を思わせるところがある。まったく寸分の狂いがない画像を、何枚でも「線香画」に仕立て上げることが可能なのだ。脳と身体が直結して、そのままカメラと化しているわけで、こんなアーティストは僕が知る限り前代未聞だと思う。
今回のNADiff Galleryの展示でも、その超絶技巧を充分に堪能することができた。こういった特異な集中力の持ち主は、脳に障害をかかえている場合が多く、それを自分でコントロールするのは難しくなる。だが市川の場合、衝動に身をまかせきっているわけではなく、一面ではかなり冷静に手順を追って自分の作品を完成させていくことができる。今回は、花や蝶の輪郭をくっきりと描き出した「わかりやすい」作品だけではなく、どこか不気味な抽象画のような場面の作品も展示していた。聞けば、それは脳内に再現される記憶がまだぼんやりとしている段階で形にしたものなのだという。そんなこともできるのかと驚くしかないが、それでも彼の能力がまだ完全に開花しきっているようには見えない。もし彼がこのまま表現者として成長し続けていけば、いったいどんな怪物じみた作品が出現してくるのか。途方もない可能性を秘めた才能だと思う。
なお、東京都現代美術館内のWall Gallery/NADiff contemporaryでも、6×3メートルという彼の大作「merry-go-round」が展示されていた(4月6日~5月8日)。こちらも凄いとしかいいようがない。

2011/04/29(金)(飯沢耕太郎)

ヘンリー・ダーガー展

会期:2011/04/23~2011/05/15

ラフォーレミュージアム原宿[東京都]

ワタリウム、原美術館とわりとファッショナブルな美術館で4、5年にいちど開かれるダーガー展。今回はラフォーレミュージアムでの開催だ。ダーガーはいまや若者のファッションか。導入部ではまずダーガーの生い立ちやエピソードなどがパネルで紹介されている。家族も友人もなく、人知れず半世紀にわたり破天荒な超長編絵物語《非現実の王国で》を書き続け、孤独のうちに死んだという事実を刷り込まれたうえで作品を見てもらおうという仕掛け。展示は順路もなく、仮設壁が迷路のように入り組んでいて、この希代の絵物語の紹介にはふさわしい。もっともこれらの絵の大半は大きな横長の紙の表裏に描かれているので、両側から見るには仮設壁を多用するしかないという事情もあるが。いずれにせよ展示されてる絵より、その絵を描いた(描かざるをえなかった)ヘンリー・ダーガーその人とその行為が圧倒的な重みをもつ。

2011/04/29(金)(村田真)

岡林真由子 展「不在の窓」

会期:2011/04/26~2011/05/01

立体ギャラリー射手座[京都府]

風景と建物が描かれた画面に人物は登場しない。しかしそれらの月明かりやカーテン越しの空間になにかの気配が漂うような、もう一度振り返って見つめたくなる趣きがある。建物の壁面にぴたりと張り付くように描かれた植物の違和感にも視線を注いでしまう。小さなドローイングのファイルにはパズルの断片のように岡林の作品世界の魅力が詰まっていて、これもいつか展示してほしいと感じるものだった。

2011/04/28(木)(酒井千穂)