artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

イェンス・ブラント展「BRAND G-PLAYER4」

会期:2011/05/07~2011/05/28

CAS[大阪府]

現在、大気圏上を周回する人工衛星は約1,200もあるそうだ。そのどれかをランダムにキャッチし、人工衛星をレコード針に、地表をレコード盤の溝に見立てて、地球の音をサウンドアートとして提示したのが、イェンス・ブラントの作品《BRAND G-PLAYER 4》だ。作品は2種類あり、ひとつは既成のオーディオを流用した外観で、もうひとつはスマートフォンのアプリケーション仕立てとなっている。また、リアリティを追究して商品カタログを製作するなど、芸の細かさにも感心した。スケールの大きさと、ディテールへのこだわり、その両方が高い水準で両立した個展だった。

2011/05/09(月)(小吹隆文)

中村紋子「Silence」

会期:2011/05/07~2011/06/05

B GALLERY[東京都]

中村紋子から届いたDMに「マジメな写真展します」と添え書きしてあったので、どういう展示なのかと思って見に行った。というのは、中村は以前『週刊あやこ』というイラスト、写真入りの小冊子を発行したり、ピンク色の長い耳をつけたサラリーマンたちの演出的なポートレート「ウサリーマン」のシリーズを発表したりしていて、どちらかといえば「マジメ」にはほど遠い作風だったからだ。
「Silence」はたしかに張りつめた緊張感が漂う、「マジメ」な作品群だった。雲、花、魚群、水面の波紋、空を行く鳥の影など、自然を写している写真が多いのだが、動物の剥製、遊覧船の老夫婦、眠る女性の横顔なども含まれている。生まれたばかりの赤ん坊の写真もあるが、そこにも産声や身じろぎの気配はなく、どこか標本めいた沈黙が画面を支配している。楽しくて、元気いっぱいの印象が強かった中村にこんな一面があったことはたしかに意外であり、本人もそれを「二面性」という言い方で認めている。写真家としての表現力の高さは、このシリーズにも充分に発揮されているのだが、やはり違和感が残る。おそらく何かきっかけがあれば、その極端に引き裂かれたふたつの世界が融和し、溶け合うことがあるはずだ。中村自身は、その時期はかなり先のことと思っているようだが、そうともいえないのではないだろうか。それこそ「マジメ」にふたつの世界の線引きなどせずに、時々気軽にひょいと越境してみるといいと思う。中村の「笑えない」作品をずっと見せられるのは少し辛い。
展覧会と同時に『Silence』(リブロアルテ、発売=メディアパル)も刊行された。小ぶりだが、しっかりと編集された写真集だ。

2011/05/08(日)(飯沢耕太郎)

ホンマタカシ「between the books[Mushroom…]」

会期:2011/05/02~2011/05/15

LimArt[東京都]

ホンマタカシからの嬉しいプレゼント。東京オペラシティアートギャラリーの「ニュー・ドキュメンタリー」展(4月9日~6月26日)のカタログの巻末に掲載されていたきのこの写真を見て「これは!」と喜んでいたのだが、意外に早くLim Artでの展示が実現した。
僕らきのこフリークにとって、きのこの写真が掲載されている図鑑類はとても大事なアイテムだ。だが写真評論家として見れば、図鑑はあくまでも図鑑であり、たしかに生態的には正確に描写されてはいるが、表現としてのふくらみにおいては物足りない。写真作品としてのクオリティの高さと、きのこの生きものとしての魅力を両方とも満足させてくれるようなきのこ写真がないものかと、以前からずっと思っていたのだが、それが本当に実現した。ホンマタカシの手法は、まさにきのこたちの姿を繊細に描写したポートレートといえるだろう。白バックに一体ずつ精妙なアングルで捉えられ、土や枯れ草がついた根元の菌糸の部分にまでしっかりと目配りされた写真群は、実に愛らしく、しかも凛とした生命力にあふれている。僕にとってのホンマの最高傑作は、1990年代に『S&Mスナイパー』誌に連載された「Tokyo Willie」のシリーズだったのだが、ついにそれを超える作品が登場したといえるだろう。
展示にも工夫が凝らされている。「between the books[Mushroom…]」というタイトルは、アート関係の洋書古書店であるLim Artの本の間に、きのこの写真が並んだり挟み込まれていたりしている展示にぴったりしている。まさに「書棚のきのこ狩り」の気分を味わわせてくれるのだ。写真にはきのこのほかにトケイソウのような植物や山や森の風景も含まれている。それはそれで悪くはないのだが、わがままを言えば、今回はきのこだけに絞ってほしかった。

2011/05/08(日)(飯沢耕太郎)

五百羅漢

会期:2011/04/29~2011/07/03

江戸東京博物館[東京都]

震災の影響で3月15日のオープンが1カ月半ほど遅れた待望の展覧会。幕末の絵師・狩野一信によって描かれ、芝増上寺に秘蔵されてきた「五百羅漢図」全100幅を一挙公開するというのだ。これまでも西洋化した開国期の日本絵画とか、幕末の奇想画とかいった文脈で何点か展覧会に出されたことはあるけれど、一挙公開は初めてのこと。業火に包まれる地獄、匂い立つような餓鬼、血まみれの死体などを細密に、極彩色で、ときにハンパな遠近法や陰影表現を用いて描いている。そんな絵が100幅も並んでいる(凝ったインスタレーションだ)から壮観きわまりない。若冲、蕭白、北斎ら奇想の系譜のまさに正当な後継者というべきか。展覧会を監修した山下裕二氏の解説も「さながら『朝まで生テレビ』である」とか「一信のアドレナリンは最高潮に達している」とか「羅漢ビーム」とか「キリンビールの『麒麟』のようなもの」とか「『羅漢建築事務所』から『羅漢工務店』に発注された寺院の建設」とか、解説の域を超えて絶好調、もう好き放題書いている。やっぱり企画監修者が楽しめなきゃ展覧会は楽しくならないよ。

2011/05/06(金)(村田真)

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田窪恭治 展 風景芸術

会期:2011/02/26~2011/05/08

東京都現代美術館 企画展示室1F、B2F[東京都]

豪快な1/1のスケールによって、建築に介入する田窪の「風景芸術」を紹介する展覧会だ。鈴木了二との共作「絶対現場」、美術館の吹抜けに実現できなかった鋳物の床を出現させたフランスにおける林檎の礼拝堂、そして琴平山の再生計画などの代表作がダイナミックな空間体験とともに楽しめる。改めて比較すると、やはり林檎の礼拝堂のプロジェクトが作品の密度において圧巻だった。当時の日本はまだメセナの金も存分使えたタイミングであり、そうした経済状況も追い風になったのだろう。今では難しいと思われるが、あの時代だからこそ後世に残すことができた素晴らしい芸術作品である。

2011/05/05(木)(五十嵐太郎)

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