artscapeレビュー

鎌田紀子「torotorotoro…」

2009年10月01日号

会期:2009/09/20~2009/10/12

湘南くじら館「スペースkujira」[神奈川県]

岩手県在住のアーティスト、鎌田紀子の個展。布製の人形やドローイングなどを発表した。肌色のメリヤスなどを縫い合わせた人形たちが天井から吊られながら辛うじて自立し、椅子に力なく腰掛け、階段にゴロンと横たわる異様な光景に圧倒される。いずれも頭髪はなく、肌着を素材としているせいか、ひょろひょろの身体の肌質が妙に生々しい。こぼれ落ちそうなほど大きな眼は焦点が合っておらず、虚空を見つめているようだし、わずかに開いた口の奥に垣間見えるギサギザの歯が秘めた凶暴性を物語っているようでもある。ふつう人形といえば、人間との親密性を体現するものだが、鎌田の人形たちには、人間を受け入れながらも、どこかで突き放し、拒絶する、頑なな意思が垣間見えるのだ。その隠された半身の闇が、見る者にどうしょうもない居心地の悪さを与えているのかもしれない。だが、人間のコミュニケーションとは、どんなに深く理解しあったとしても、そうした裏切りの可能性が残されているのだすれば、じつは鎌田の人形は、ほんとうの意味で人間の精神を宿しているといえるのではないだろうか。

2009/09/20(日)(福住廉)

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