artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
野村仁 変化する相─時・場・身体

会期:2009/05/27~2009/07/27
国立新美術館[東京都]
野村仁の大規模な回顧展。数多くの作品を整然と並べた展示そのものが野村の作品ではないかと思えるほど、作品の内容と展覧会の形式がシンクロした展観で、たいへんな見応えがあった。ひとつひとつの作品を丁寧に見ていくと、物体に加わる重力や日常の記録に注がれていた野村の視線が、次第に天体の規則性や宇宙の謎に向けられていく様子がはっきりと伝わり、そのスリリングな展開がたまらない。野村の系譜に位置づけられる若いアーティストたちは少なくないが、彼らの今後の活動をまっとうに評価するためにも、まずは野村の活動の行き先をしっかりと見届けることが必要だ。今後の動向をもっとも注目すべきアーティストである。
2009/07/11(土)(福住廉)
ネオテニー・ジャパン──高橋コレクション

会期:2009/05/20~2009/07/15
上野の森美術館[東京都]
現代アートのコレクターとして知られる高橋龍太郎のコレクションを公開する展覧会。村上隆や会田誠、山口晃、鴻池朋子、小谷元彦など、90年代からゼロ年代にかけての日本の現代アートを代表する作品がずらりと並んだ展示は圧巻だ。それらが90年代以後の歴史を体現した作品であることはまちがいないのだろうが、同時にそれらを公立美術館でまとめて収蔵できていないという事実が、90年代以後の日本の現代アートの窮状を物語っていた。
2009/07/11(土)(福住廉)
京都学「前衛都市・モダニズムの京都」1895 1930

会期:2009.06.09~2009.07.20
京都国立近代美術館[京都府]
近代の京都の文化を「前衛都市」という視点から考察する展覧会。1885年の『日出新聞』創刊と琵琶湖疎水工事の着工、はじめて裸体画を公開した黒田清輝や、浅井忠、新進の竹内栖鳳らが出品した1895年開催の「第四回内国勧業博覧会」、化学や七宝、工芸を指導したゴットフリート・ワグネルの仕事、「日本映画の父」と呼ばれる牧野省三が設立した映画プロダクションなど、4つのテーマで構成されていた。当時の国情が色濃く反映された博覧会とその様子、芸術表現への波紋など、それぞれの切り口が複層的に時代のイメージを伝えていて興味深いものだった。1階のロビーには、復活プロジェクトによって復元された大正時代の輸入電気自動車「デトロイト号」も展示。素晴らしかったのは10日、11日に開催された映画上映会。1920年代の作品を中心に、10日はギター、三味線、フルートの演奏と活弁つき、11日はピアノ伴奏つきで開催された。どちらかというと会場の展示は地味なイメージだったが、「京都のモダニズム」の雰囲気を味わえる工夫や試みがあちこちで感じられる展覧会だった。
2009/07/10(金)、2009/07/11(土)(酒井千穂)
エア・ヴァスコ「Defining Darkness」

会期:2009/06/27~2009/08/09
G/P GALLERY[東京都]
恵比寿のG/P GALLERYでも、ヘルシンキ・スクールの若手作家であるエア・ヴァスコ(1980年生まれ)の個展が開催されていた。2005年から一年間、武蔵野美術大学にも留学経験があるというヴァスコの作品は、他の写真家たちとは違って、フィンランドの自然環境とは切り離された、より内面的な抽象世界を形成しており、同じヘルシンキ・スクールといってもそのスタイルや題材にかなりの幅があることがわかる。
彼女が「暗闇」(darkness)にこだわるのは、少女時代の記憶にその源泉がある。「カーテンの影や床に散らばった服の生地で形づくられた幽霊やスパイ、モンスターのようなもの」が、暗闇を写真によって「定義」(define)し直すことで、ふたたび画面の中に召喚されるのだ。事物の表層的な色彩や質感にこだわるヴァスコ写真の感触は、日本の同世代の小山泰介や西澤諭志とも通じるものがあるように感じる。世の東西を問わず、似たような物の見方があらわれてきているのだろうか。
2009/07/09(木)(飯沢耕太郎)
ヘルシンキ・スクール写真展──風景とその内側

会期:2009/06/27~2009/08/09
資生堂ギャラリー[東京都]
ヘルシンキ・スクールとはフィンランドのヘルシンキ芸術大学の教師、卒業生を中心とした写真家グループ。1982年から同大学で教えはじめたノルウェー出身のティモシー・パーソンズが、90年代から積極的に展覧会を開催し、作品の発表の場としてギャラリー・タイクを設立して、内外に広くその存在をアピールしてきた。ドイツのHATJE CANTZ社から、既に3冊の写真集も出版されている。
資生堂ギャラリーでの展覧会は、そのヘルシンキ・スクールの作家たちの日本での最初の本格的な展示といえるだろう。今回紹介されたのは、グリーンランドの氷河やそこに住むイヌイットたちを撮影するティーナ・イトコネン(1968年生まれ)、東洋画の影響を取り入れた風景写真のサンドラ・カンタネン(1974年生まれ)、女性と水という神話的なテーマを扱うスサンナ・マユリ(1978年生まれ)、少女時代の記憶を仮面劇のような設定に投影するアンニ・レッパラ(1981年生まれ)の4人、ヘルシンキ・スクールの第二世代から第四世代にあたる女性写真家たちである。彼女たちの作品に共通しているのは、フィンランドの豊かな自然環境に対する親和性と、ロマンティシズムと高度な技術力との見事な融合だろう。強烈な自己主張を感じさせる作品群ではないが、そのゆったりとした時間の流れを感じさせる、地に足がついた落着きがある表現はとても好ましいものがある。
アメリカ、ドイツ、フランスといった写真大国ではなく、このような「辺境」の国からもきちんとしたメッセージを発することができるというのは、極東の島国・日本の写真家たちをも勇気づけるのではないだろうか。
2009/07/09(木)(飯沢耕太郎)


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