artscapeレビュー

西澤諭志「写真/絶景 そこにあるもの」

2009年06月15日号

会期:2009/05/01~2009/05/27

INAXギャラリー[東京都]

小山泰介の「entropix」の世界を、もう少し引き気味に見渡すと西澤諭志の「絶景」になる。ここから見えてくるのも、合成樹脂に覆いつくされてしまった表層の連なりだ。若い世代が嗅ぎつけた世界の見え方が、どうやらはっきりと形をとりつつあるようだ。
撮影場所は、彼が在学していた東北芸術工科大学の校舎内らしい。テーブルや椅子、ソファ、プラスチックのバケツ、ブラインド──何の変哲もない、決して高級ではない(かといって安物でもない)日常的な家具が配置された光景が、大判カメラで切り出され、ほぼ等身大まで引き伸ばされてインクジェットプリントに焼き付けられている。ところが、壁に残るテープの貼り痕、積み上げられたソファ、テーブルの上の傷、ブラインドの向こう側にちらりと見える人の影などが、意味付けの一歩手前くらいで宙吊りにされていて、なぜか心をざわめかせる。そのたたずまいは、見方によっては現代美術のオブジェのようでもある。場所を特定する情報を巧みにカットし、「どこでもないが、どこでもありそうな」眺めを画面に再構築していく手続きがなかなかうまい。
このシリーズをどんなふうに展開していくのか。小山泰介もそうなのだが、次の一歩の踏み出し方が大事になってきそうだ。

2009/05/16(土)(飯沢耕太郎)

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