2020年09月15日号
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artscapeレビュー

原口典之 展 社会と物質

2009年06月01日号

会期:2009/05/08~2009/06/14

BankART Studio NYK[神奈川県]

1970年前後の東京を中心に展開した美術運動「もの派」。その代表的な美術家として知られる原口典之の大々的な回顧展が、神奈川県横浜市のBankART Studio NYKで開催中だ(6月14日まで)。
展示された作品はどれも力強い存在感を放っている。「ファントム」は、ベトナム戦争で出撃した戦闘機の尾翼部分を実寸大で再現した巨大な立体作品で、「オイルプール」は大きな長方形の型に廃油をなみなみと湛えた原口の代表作だ。いずれも、倉庫を改装した広々とした空間に負けず劣らず、圧倒的な迫力を誇っている。
けれども、その存在感は素材の物質的な重量だけに由来しているわけではない。たしかに「ファントム」の機体は見上げるほど大きいが、アルミニウムの表皮の内側には最低限の構造しかないから、ハリボテのような軽薄さも感じさせる。
海底ケーブルに使われるという巨大なゴム管を輪切りにした立体作品も、素材からは想像できないほどの硬度と重量が見る者を圧迫する一方で、中心が空洞であるせいか、その先に広がる会場外の海面を見通すと、爽快感すら覚えるほどだ。
重さと軽さ、中身と表面。原口作品の圧倒的な存在感は、こうした物質の両義性にもとづいている。ものそのものを直接的に提示することによって、新しい世界のありようを開示するという点でいえば、たしかに「もの派」の作品にはちがいない。しかし、それだけなのだろうか。
鏡面のように世界を対称的に映し出す「オイルプール」を覗きこむと、反転した天井の像であるにもかかわらず、床下にもうひとつの世界が広がっているように錯覚してしまう。そのクリアなイメージは、空間との関係性を重視する「もの派」の作法とは対照的だ。だとすれば、原口作品は「もの派」という美術運動よりはるかに深い、人類にとっての根源的な原点を探り当てているのではないだろうか。洞窟壁画の前に集まっていた原始人たちは、躍動する動物たちを岩壁に描きつけることで、つまり物質の両義性を開示することによって、豊かなイメージを励起させていたにちがいないからである。

2009/05/16(土)(福住廉)

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