artscapeレビュー
万華鏡の視覚──ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションより
2009年06月01日号
会期:2009/04/04~2009/07/05
森美術館[東京都]
内覧会ではうかつにも見逃してしまったが、傑作があった。それは、リテュ・サリンとテンジン・ソナムによる《人間の存在に関する問答》(2007年)という作品。チベット仏教の修行僧たちが繰り広げる弁証法的な問答を映し出す短い映像作品だが、これがほんとうにおもしろい。一方の修行僧が両手を打ちながらテンポよく次々と問いを発し、軽いプレッシャーを与えながら他方の修行僧に応えさせる訓練法だ。三段論法にもとづいているらしいが、おもしろいのはその応酬の論理的な整合性というより、むしろそのやりとり自体がある種の「芸」として研磨されているところ。文字どおり坊主頭の修行僧たちは一見するとどれも同じように見えるが、彼らの所作や身ぶり、言葉づかいを注意深く見てみると、ある一定の型式を踏まえながらも、それぞれ異なる「芸」を身につけていることがよくわかる。こんな修行であれば、ぜひやってみたいと思わせるほど、楽しそうだ。
2009/04/29(水)(福住廉)
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