artscapeレビュー

操上和美「セルフポートレイト」

2015年05月15日号

会期:2015/04/10~2015/05/10

B GALLERY[東京都]

アーティストの中には、ひとたび作品ができ上がったら、もうそれらをまったく顧みることのないタイプと、何度となくその作品のヴァリエーションを作り続けるタイプがいるようだ。マン・レイやルネ・マグリットなどは、同じテーマを飽くことなく変奏し続けたのだが、操上和美にもそんな所がある。だが、むろん彼らは同じ場所に留まってくり返しているのではなく、絶えず変わり続けていく、そのきっかけとして自作を利用しているのではないかと思う。
今回の新宿・B GALLERYでの操上の個展のタイトルは「セルフポートレイト」だ。だが「自写像」だけが並んでいるわけではない。彼が1970年代から撮影し続けてきたおびただしい数の広告写真や肖像写真、それらをアトランダムに選んで組み合わせ、その上にジャズのインプロヴィゼーションのように色や形を自由に重ねていく。俳優、女優、歌手、アーティストなどの著名人がモデルになっていることが多いのだが、彼らの社会的なステータスは潔いほど無視され、完全に”素材”として再利用されている。自分自身による自作の再解釈という側面はむろんあるのだが、純粋に遊び(プレイ)を楽しみながら作っているのが、むしろ気持ちのよいヴァイブレーションをともなって伝わってくる作品が多かった。
会場に展示されているのは19点だが、おそらくそこまで絞り込むためには、膨大な量の試作が積み上げているのではないだろうか。その厚みと凄みは、展覧会にあわせて刊行された同名の写真集(造本は本展の共同制作者といってよい町口寛)からもヴィヴィッドに感じとることができた。

2015/04/10(金)(飯沢耕太郎)

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