artscapeレビュー
津田直「NAGA」
2015年03月15日号
会期:2015/02/03~2015/02/22
POST[東京都]
津田直の写真の発表のスタイルが明らかに変わったのは、本展の前作にあたる「SAMELAND」(POST、2014年)からである。それまでは、一点一点の独立性が高い少数の作品を、それぞれ屹立させるように提示していたのだが、「SAMELAND」ではより緩やかな流れの中で、彼自身の旅や移動の移りゆきに即して写真を見せるようになっていった。そのスタイルは、2013年と14年に、ミャンマー北部のインドとの国境に近いザガイン管区に住むナガ族の人々の暮らしと祭礼を撮影した、今回の「NAGA」のシリーズでも踏襲されている。ただ、今回の展示は、書店に併設する展示スペースの大きさの問題もあって、数自体は7点とそれほど多くない。むしろ、73点の作品をおさめて、同時刊行された同名の写真集(limArt刊、デザインは前回と同じく田中義久)の方に、津田の意図がよくあらわれているように感じた。
津田の写真の叙述のスタイルは、人類学者の「フィールドノート」を思わせる所がある。つまり、飛行機とジープを乗り継いでナガ族の村に入り、いつもの旅と同じようにメンター、すなわちよきガイドの役目を果たす人物と出会い、彼の導きによって未知の精神世界の深みへと入り込んでいく、そのプロセスが細やかに、ほぼ時間的な経過を踏まえて辿られているのだ。その「フィールドノート」を、整理、推敲して整えていくのではなく、むしろより「生の」形で提示しようとするのが「SAMELAND」や「NAGA」の試みなのだ。ただ、その試みがうまくいっているかどうかについては、まだもう少し判断を留保したい。むしろ以前の、一枚の写真に視覚的な情報をぎっしりと埋め込んでいくやり方の方が、効果的に思える場合もあるからだ。いずれにしても、さまざまな方法論を模索していく中で、津田の写真の世界は、もう一つスケールの大きなものに脱皮していくのではないだろうか。
2015/02/11(水)(飯沢耕太郎)