artscapeレビュー

岡田敦「MOTHER」

2014年12月15日号

会期:2014/11/08~2014/11/30

Bギャラリー[東京都]

岡田敦の新宿・Bギャラリーでの写真展を見て、写真作品の教育的な意味ということについて考えた。今回の展示作品は、2008年に撮影されたもので、一人の女性の出産の場面を克明に追い続けている。赤ん坊が妊婦の産道を通って、生まれてくる過程は、普通はなかなか見ることができないものだ。血と羊水にまみれて産声をあげる生々しいその姿に、思わず目をそむける人もいるだろう。だがアーティストの中には、人間の誕生と死の場面を、タブーとして覆い隠しておくことに疑問を持つ者もいる。岡田もその一人であり、今回の写真展と柏鱸舎からの同名の写真集の刊行は、果敢なチャレンジといえる。
特に若い世代の観客にとって、このような場面を目にすることは、大事な“学び”の機会になるのではないだろうか。実際に、岡田は早稲田大学で開催された講演会で、このシリーズを学生たちに見せたのだという。その時の反応の一部が、写真展のリーフレットに再録してあった。それらを読むと、学生たちが出産の場面を「自分が生きている世界に、現実に、本当に起こっているのはこういうことなんだなと感じた」、「生を通して死を考えてしまいました」などと、真剣に、ポジティブに受けとめていることがよくわかる。それはまさに写真の教育的効果というべきではないだろうか。
展覧会の会場構成について、やや疑問が残ったことがある。スペースの関係で、写真集に収録した写真を全部見せるのはむずかしいので、画像をモニターでスライドショーの形で流していた。そのことが、プリントのインパクトを弱めてしまっているように感じた。さらに、おそらく同じ女性モデルの写真と思われる、写真集に未収録のヌード写真が何点か展示されていた。それらが「MOTHER」シリーズとどのように関わっているのかが、すっきりと見えてこない。今回は展示も単純に出産の場面だけに絞った方がよかったのではないだろうか。

2014/11/11(火)(飯沢耕太郎)

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