artscapeレビュー
長野陽一「大根は4センチくらいの厚さの輪切りにし、」
2014年09月15日号
会期:2014/08/19~2014/09/05
ガーディアン・ガーデン[東京都]
長野陽一は1998年に沖縄・奄美諸島に住む10代の少年・少女のポートレイトのシリーズを、「人間の街」プロジェクトの一環としてガーディアン・ガーデンで展示した。今回の展示はそれから16年を経て、かつて同会場で展覧会を開催した写真家の「その後」をフォローする「セカンド・ステージ」という枠での企画になる。会場には78点の料理写真が整然と並んでいた。
長野が料理写真を本格的に撮影するようになったのは、2002年に創刊された雑誌『ku:nel』で料理のページを担当するようになってからだ。試行錯誤の末、彼が見出していったのは「料理の美味しさだけでなくその背景にある人やストーリーが撮りたい」ということだった。たしかに、普通、料理写真といえば、最終的に出来上がった時の形状をしっかりと読者に伝わるように撮影することにこだわったものが多い。長野の料理写真も、たしかにそれがどのような「見かけ」なのかを正確に写し取っている。だが、決してそれだけではなく、彼の写真には料理がどのような状況で、どんな風に作られてきたのか、そのプロセスを読者にいきいきと伝える力が備わっているように思える。その秘訣が何なのかを答えるのは、けっこうむずかしい。だが、どの写真を見ても、その場にある光(自然光、白熱灯、蛍光灯など)を使い、余分な要素をカットしてシンプルに、しかも素っ気ない感じを与えないように愛情を込めて撮影することで、料理写真でもその「行間」を読み取らせることが可能になるのではないだろうか。
料理写真も「撮られた理由や実用性を切り離して一枚の絵としてみると、ポートレイト写真と似ている」というのが、長野が長年にわたる模索を経て導きだした結論だ。たしかに、彼の写真は「一枚の絵」としての強度、完成度がとても高い。しかも写真の見せ方に、それぞれの料理の個性や性格を「ポートレイト写真」としてしっかり捉えようとしている様子がうかがえる。この方向性を、さらに究めていってほしいものだ。
2014/08/29(金)(飯沢耕太郎)