artscapeレビュー
劉敏史「存在と匿名」
2014年09月15日号
会期:2014/08/02~2014/08/31
流山市生涯学習センター1階小ギャラリー[千葉県]
劉敏史(ユウ・ミンサ)は高度な思考力と実践力を合わせ持った写真作家である。その実力は2005年にビジュアルアーツフォトアワードを受賞した「ユピクヰタスキアム(果実)」のシリーズや、2009年にAKAAKAで展示された「─270.42℃ My cold field」でも、存分に発揮されていた。
今回、流山市生涯学習センターで展示された新作「存在と匿名(self, others, incognito)」は、仮面をつけた人物のポートレイトのシリーズである。劉は会場に掲げられたコメントで「制作や創作の結果としての作品を目指すのではなく、ただ「なる」ということに結実した作品を手にできないか」と書いている。また自己と他者、内面と外面の関係を突き詰めた結果として「これ程身近にありながら一向に把握することのできない自己という現象とそれ以外のもの。それならばいっそ隠してしまえと目を伏せた」とも書く。このような思考を経て、仮面という両義的な装置に辿りついたというのは充分に納得できることで、結果的に日常的な場面でありながら、どこか異界にするりと抜け出てしまうような怖さを秘めたポートレイト群が出現してきた。ただ展示されている数が、仮面そのものを撮影した写真も含めて14点とまだ少ないので、これから先、さらに大きく発展していく可能性を秘めたシリーズといえるのではないだろうか。
これらの作品の被写体となっているは流山の市民なのだという。どうやら撮影から展示に至るプロセスは、演出家の小池博史との共同作業のようだが、それが今後どんなふうに展開していくのかも楽しみだ。
2014/08/30(土)(飯沢耕太郎)