artscapeレビュー
山谷佑介「Tsugi no yoru e」
2014年03月15日号
会期:2014/02/12~2014/03/05
YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]
ギャラリーの壁には8×10判のモノクロームのプリントが51点、アルバムのページを開いたような雰囲気で並んでいる。1985年、新潟生まれの山谷佑介の写真のスタイルは、まさに正統的なストリート・スナップだ。「Tsugi no yoru e」は大阪のアメリカ村界隈を中心に撮影されたシリーズだが、写真そのものの印象は時代や地域を超越している。見方によっては、エド・ファン・デル・エルスケンの「セーヌ左岸の恋」、ブルース・デビッドソンの「ブルックリン・ギャング」、ラリー・クラークの「タルサ」など、1950~70年代のユース・カルチャーを主題にしたプライヴェート・ドキュメントと、ストレートにつながっているようでもある。しかも、山谷のカメラワークやプリントワークはすでにかなり高度な段階にあり、若さに似合わない老練さすら感じられる。
ということは、大事なのはまさに「Tsugi no」作品ということになるのだろう。目の前に次々に出現してくる状況を的確な技術で把握し、スタイリッシュな画面にまとめ上げていく能力の高さは今回の展示で充分に証明されたのだから、次作でそれをどんなふうに発展させていくのか、あるいは停滞してしまうのかが問われることになる。センスのよさだけで評価される時期は意外に短い。どこで、どんなふうに撮影するのか、次なる展開に向けて、着々と準備を整えてほしいものだ。なお、本展は2013年に山谷が自費出版した同名の写真集に収録された写真をもとに構成された。黒い布をパッチワークのように繋ぎ合わせたユニークな表紙の写真集は、すでに完売しているという。
2014/02/20(木)(飯沢耕太郎)