artscapeレビュー
津田直「SAMELAND」
2014年03月15日号
会期:2014/02/14~2014/03/06
POST[東京都]
先日、シカゴに行くため成田空港に出かけたときに、津田直にばったり出会った。聞けば、これからミャンマーの奥地に出発するのだという。その偶然の邂逅に大して驚きもしなかったのは、彼が旅を日常としていることをよく知っているからだ。何かに取り憑かれたようにと言いたくなるほど、あちこちに出かけている。その行動範囲の広さは日本の写真家のなかでも際立っているのではないだろうか。
今回彼が旅立ったのは、北極圏のサーメランド。フィンランドとノルウェーにまたがる地域に住むサーメ人たちの居住地である。彼らはトナカイの遊牧を主たる業として、伝統的な暮らしを営んでいる。津田はニールスというシャーマンの血を引く男と出会い、サーメ人たちとの交友を深めつつ、ノルウェー最北端の岬、ノールカップへと向かう。よき導き手を見出す(というより引き寄せる)能力の高さこそ、写真家としての津田の最も優れた資質であり、旅の間に撮影された風景や、ポロ・メルキトゥスと呼ばれるトナカイの親子を選別する行事の写真は、絶対的な確信を持って撮影されているように感じる。
今回の作品はメインの会場に5点。これらはどこか向こう側に連れ去られてしまいそうな、魅力的な風景写真である。さらに書店の本棚の隙間などに、サーメ人のポートレートを中心に8点がバラバラに並ぶ。この展示のたたずまいが実にいい。観客もまた、津田がサーメランドで経験した出会いを追体験できるように仕組まれているのだ。
2014/02/21(金)(飯沢耕太郎)