artscapeレビュー
松原健「反復」
2014年03月15日号
会期:2014/02/07~2014/02/28
MA2 Gallery[東京都]
大森克己の「sounds and things」とともに、東京都写真美術館の「第6回恵比寿映像祭」(2月7日~23日)の関連プログラムとして開催された本展は、松原健にとっては同ギャラリーでの2年ぶりの個展となる。松原は、これまでも「人々の記憶が泌み込んだ写真や動画」にこだわり続けてきたが、今回の新作展ではそれがより多彩に、技術的にもより高度に洗練された形で実現されていた。
2階の会場に展示されていた「Hotel Continental Saigon」と「Potsdamer Platz」は、ベトナム、ホーチミン・シティの歴史的なホテルとドイツ・ベルリンのポツダム広場を背景に撮影された古写真と、同じ場所の最近の映像とを対比させる作品。1階の作品「Round Chair」では、水が入った複数のグラスが丸椅子の上に置かれ、その底でガラスの器が割れたり、少女が川の流れの中を遡ったりといった映像が揺らめく。これらの作品を通じて、松原はキェルケゴールの「反復と追憶とは同一の運動である、ただ方向が反対であるというだけなのである」というテーゼを、観客へ問いかけようとする。哲学的な作品だが、本やグラスや椅子のような日常的な事物を効果的に使うことで、こけおどしの重苦しさは注意深く避けられている。むしろ誰もが自らの記憶の奥底にあるイメージと重ね合わせることができるような、親しみやすい仕掛けが凝らされていると言えるだろう。
松原の作品のクオリティの高さは特筆すべきだと思うが、残念なことに日本の現代美術、写真関係者の反応は鈍い。むしろ近年はアメリカやヨーロッパでの展覧会が相次ぎ、評価が高まりつつある。日本のアート・シーンでは、どうしても若手に目が行きがちだが、彼のように長く、コンスタントに作品を発表し続けてきた中堅作家もきちんとフォローしていくべきではないだろうか。
2014/02/09(日)(飯沢耕太郎)