artscapeレビュー

大森克己「sounds and things」

2014年03月15日号

会期:2014/02/06~2014/03/09

MEM[東京都]

大森克己は音に敏感な「耳のいい」写真家だと思う。1994年に「写真新世紀」で優秀賞を受賞してデビューするのだが、そのときの作品はロック・バンドと一緒にヨーロッパや南米をツアーした旅日記だった。障害者のバンドを題材にした『サルサ・ガムテープ』(1998)という作品もある。音楽にかかわる人々や現場を撮影することが多いというだけでなく、大森は被写体を無音の事物として画面に凍りつかせることなく、それらをその周囲を取りまくノイズごと受け入れようとする姿勢が強いのではないだろうか。
その傾向は、今回のMEMでの個展にもはっきりと表われていた。「シューベルト 未完成交響曲の練習/うらやすジュニアオーケストラ」(2013)、メトロノームと管楽器を手にした少年を撮影した「black eyes and things」(2013)といった、音楽に直接的に関係する作品だけでなく、「耳を塞ぐ、そして耳を澄ます」(2013)、「呼びかけの声」(2013)といった「sounds」をはっきりと意識したタイトルの作品もある。むろん、視覚的な媒体である写真で聴覚的な体験をストレートに表現するのは不可能だが、大森はあえて色、形、光、空気感などを総動員して、画面から「聞こえない」音を立ち上がらせようとする。それを肩肘張らず軽やかにやってのけるのが、大森の写真術の真骨頂と言えるだろう。
今回の展示作品は新作が中心だが、2004年頃から折に触れて撮影してきた写真も含まれている。このところ、震災後の桜を撮影した『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー、2011)など、特定のテーマでまとめた作品を発表することが多かった大森だが、彼の写真行為のベースが、このような日々のスナップショットの積み重ねであることがよくわかった。

2014/02/09(日)(飯沢耕太郎)

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