artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
上本ひとし「海域」
会期:2013/11/20~2013/12/03
銀座ニコンサロン[東京都]
上本ひとしは1953年、山口県下松生まれの写真家。靴の販売店を営みながら、1970年代から写真撮影を続けてきたが、2001年にニッコールフォトコンテストでニッコール大賞、長岡賞を受賞したのをひとつのきっかけとして、本格的に写真作家としての活動を開始した。以後、写真集『峠越え』(2005年、翌年さがみはら写真新人奨励賞を受賞)、『OIL 2006』(2007)を刊行するなど、旺盛な創作意欲で力作を発表し続けている。
今回発表された「海域」は山口県徳山湾の沖合にある大津島の周辺を撮影したシリーズである。大津島、及びその近くの光、平生には、太平洋戦争末期に「人間魚雷」回天の基地があり、若い兵士たちが訓練にいそしんでいた。回天は操作が難しく、訓練中に死亡する兵士も多かったという。上本はそのような史実を踏まえながらも、あくまでも現在の瀬戸内海の「海域」の眺めを、しっかりと写しとろうと努めた。その結果として、回天の乗組員たちも日々目にしていたであろう「海の色、島影」は、静かな緊張感をたたえた「風景写真」として、きちんと成立していると思う。薄暮の時間に撮影された写真が多いこともあって、会場全体に、遥か彼方へと連れ去られてしまうような寄る辺のなさ、茫漠とした雰囲気が漂っていた。写真を見ながら、「海くれて鴨の声ほのかに白し」という芭蕉の句を思い起こしていた。
なお、本展は2013年12月19日~28日に大阪ニコンサロンに巡回する。また、展覧会にあわせて蒼穹舍から同名の写真集も刊行されている。
2013/11/27(水)(飯沢耕太郎)
鷹野隆大「香港・深圳 1988」
会期:2013/11/21~2013/12/21
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
小説や詩でも「若書き」の作品というのは独特の存在感を発しているものだ。その作者の後年の作品世界の芽生えが見られることが多いが、逆にまったく異質な手触りを備えている場合もある。鷹野隆大が今回発表した「香港・深圳 1988」も、やはり「若書き」としての面白さが感じられる作品だった。
鷹野は撮影時には25歳。「もはや若いとは言えないものの、当たり前に写真を撮ることを信じていた無邪気な若造」だったという。香港ではまず取り壊しが迫っていた“魔窟”九龍城塞を目指した。首尾よく、かつてその一角に住んでいたという日本語ができる女性と知り合いになり、彼女の案内で“魔窟”の内部も撮影することができた。さらに、当時経済特区として急速に発展していた中国本土の深圳に出向き、市内の縫製工場、アパートなどを撮影した。
今回はそのなかから45点のプリントが展示されている。それらを見ると、鷹野の眼差しがフォト・ジャーナリスト的な物欲しげなものではなく、かといって単なる観光客とも違って、ニュートラルな透明性を保っているのが印象に残った。ことさらな感情移入はないのだが、それでも九龍城塞や深圳の住人たちに寄り添って、彼らの生活の襞々を丁寧に押し広げるようにして撮影しているのだ。このような撮影の経験が、後に彼の代名詞となる男性ヌードを撮影する場面などでも、細やかな気配りとして活かされていったのではないだろうか。彼が、なぜ今頃になってこれらの写真を発表する気になったのかはわからないが、時を経ることで、写真そのものが味わい深く醗酵してきているようにも思える。
2013/11/27(水)(飯沢耕太郎)
Delta「可能性の手触り」
会期:2013/11/22~2013/11/26
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
東京藝大先端芸術表現科の3年生29人の後期成果展。絵を描くやつもいれば、映画を撮るやつもいる。みんないろんなことやってるんだけど、決定的につまらない作品はなく、みんなそこそこのレベルを保っている。そんななかでもっともハラハラ時計だったのが、濱口京子の《デリバリー・サービス》。会場の入口近くに宅配の箱が積み上がっているのだが、近寄ると内部から音が聞こえてくる。発信装置を仕掛けた箱を毎日ここまで宅配業者に運んでもらってるそうだ。自分の作品を流通にのせるのではなく、流通にのせることを作品にしたもの。中から音が聞こえてくるのは不穏だ。
2013/11/24(日)(村田真)
フェスティバル/トーキョー13 F/T13イェリネク連続上演 光のない。(プロローグ?)
会期:2013/11/21~2013/11/24
東京芸術劇場シアターイースト[東京都]
F/T13の小沢剛が演出した「光のない。(プロローグ?)」は、展覧会、インスタレーション、映像、音楽、演劇などのジャンル分けが揺らぐ体験だった。テキストがさまざまな媒体に刻まれ、ついに言葉を介しない奴が現われる。有名なSF映画も想起させながら。追い立てられる羊のように観客は動き、劇場がいつもと違う場に変容していた。
2013/11/24(日)(五十嵐太郎)
黄金町バザール2013
会期:2013/09/14~2013/11/24
京急線「日ノ出駅」から「黄金町駅」間の高架下スタジオ、既存の店舗、屋外他[神奈川県]
黄金町バザール2013へ。建築では、宮晶子による京浜急行電鉄黄金町高架下新スタジオ Site-B、ワークステーションによるSite-C 工房などを見学した。いずれも高架下という面白い敷地をデザインの与件にうまく組み込んでいる。インテリアでは、吉村靖孝のレッドライト・ヨコハマもようやく見ることができた。黄金町のあちこちに現代アートが展開していたが、特に鎌田友介の家に絡んでいく建具インスタレーションがよかった。
写真(上から):鎌田友介《D.frame.window》、吉村靖孝《レッドライト・ヨコハマ》、宮晶子《黄金町高架下新スタジオ Site-B》
2013/11/24(日)(五十嵐太郎)