artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
堀尾貞治 展
会期:2013/11/19~2013/12/01
LADS GALLERY[大阪府]
芸術家のなかには制作と人生がシンクロして「全身芸術家」と称される者がいるが、堀尾貞治もそのひとりかもしれない。日々黙々と制作し、1年間に100回前後も展覧会を行なう。そんな彼の仕事は、もはや単体で批評すべきものではなく、生き様自体が一個の大きな作品と言えるのではないか。そんなわけで、今回もいつもの調子と思って出かけたのだ。ところがどっこい、彼にはまだまだ未知の引き出しが隠されていた。本展では数種類の作品が出品されていたが、最も驚かされたのは壁画状の大作である(画像)。これらは、折り畳んだ紙を黒く塗り、開いたら黒と白の模様ができていたという単純な代物だ。それが堀尾の手にかかると、かくも美しい絵画作品になるのである。なんたるセンス。やはり彼は「全身芸術家」である。
2013/11/23(土)(小吹隆文)
ユートピアを求めて ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム
会期:2013/10/26~2013/01/26
神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]
ファッション・ブランド、BA-TSUのデザイナーの松本瑠樹が蒐集した、1917年のロシア革命から、ソヴィエト連邦が形をとる1930年代に至るポスターよる展覧会である。全体は「I.帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」「II.ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」「III.第一次五カ年計画と政治ポスター」の3部に分かれ、約180点の大判ポスターが展示されている。
ワシーリー・カンディンスキー、カジミール・マレーヴィチ、ウラジーミル・マヤコフスキー、アレクサンドル・ロトチェンコなど、綺羅星のように並ぶロシア・アヴァンギャルドの巨人たちの作品は見応えがあるが、なんといっても圧巻なのは「II.ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」のパートに展示されたウラジーミルとゲオールギーのステンベルク兄弟の映画ポスター群だろう。この時期、ソヴィエト政府は大衆宣伝・娯楽としての映画上映に力を入れ、国内で製作された映画だけでなくアメリカ、ヨーロッパの映画も積極的に公開していた。ステンベルク兄弟は、ロシアの民衆芸術に起源を持つ、原色を駆使した独特の色彩感覚と、モンタージュや構成主義的な画面構成のようなアヴァンギャルドの手法を融合させ、生命力あふれる力強い映画ポスターを次々に発表していった。さらに1930年代以降のグスタフ・クルーツィスらの政治ポスターになると、写真を使用する比重がより大きくなり、フォト・モンタージュの可能性が極限近くまで追求されることになる。美と政治との軋轢のなかから花開いていったソヴィエト連邦のグラフィック・デザインと写真を、もう一度新鮮な眼で見直すいい機会となる展示だった。
2013/11/23(土)(飯沢耕太郎)
ブルース・デビッドソン
会期:2013/11/19~2013/12/21
YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]
ブルース・デビッドソンと言えば、われわれの世代には、1966年にアメリカニューヨーク州ロチェスターのジョージ・イーストマンハウス国際写真美術館で開催された「コンテンポラリー・フォトグラファーズ──社会的風景に向かって(Contemporary Photographers─Toward a Social Landscape)
」展の出品作家のひとりという印象が強い。だが、いわゆる「コンポラ写真」の起点となったこの展覧会において、デビッドソンはリー・フリードランダー、ゲイリー・ウィノグランド、ダニー・ライアン、ドウェイン・マイケルズといった他の写真家たちとは異なるポジションに立っていた。彼は『ライフ』のスタッフカメラマンを経て、1959年にはマグナム・フォトスの正会員に選出されており、正統的なフォト・ジャーナリズムを背景として活動していたからだ。
だが、今回YUKA TSURUNO GALLERYで開催された、おそらく日本では初めてと思われるデビッドソンの作品の回顧的な展示を見ると、彼がたとえばロバート・キャパ、W・ユージン・スミスのようなフォト・ジャーナリズムの本流の写真家たちとは完全に一線を画していたことがわかる。1950年代の「ブルックリン・ギャング」も、60年代の「東100番街(East 100th Street)」も個人的な動機によって、集団の「内側から」撮影されたシリーズであり、むしろロバート・フランクやラリー・クラークの写真に近い肌触りなのだ。とはいえ彼の写真には、それらのテーマをアメリカ社会の歴史を常に参照しながら撮り進めていく客観性もたしかに備わっていた。公共性と私性との絶妙なバランスが、デビッドソンの仕事にどっしりとした安定感を与えていることが、今回の個展でよくわかった。ただ残念なことに、16点の展示では彼の作品世界を概観するには無理がある。ジョゼフ・クーデルカ展と同規模の回顧展を、ぜひ実現してほしい写真家のひとりだ。
2013/11/21(木)(飯沢耕太郎)
トーキョーワンダーウォール都庁2013 西村一成
会期:2013/11/07~2013/11/28
東京都庁第一本庁舎3階南側空中歩廊[東京都]
西村一成は人物も動物も風景も抽象もこだわりなく、ガンガン描いている。間違いなく「天然」のよさがあるんだけど、1日何枚も描き続けてると100パーセント天然じゃなく、作為が見られるようになる。いわばプロの「ヘタウマ」と化しつつある。天然の素人かプロのヘタウマか、うーんビミョーなところだ。
2013/11/20(水)(村田真)
プレビュー:iTohen開設10周年記念作品展
会期:2013/12/11~2013/12/28
iTohen[大阪府]
大阪市北区のiTohenは、2003年12月に開業したスペースで、書店、ギャラリー、デザインオフィスが融合した形態となっている。扱うジャンルは多様だが、ファインアートとコマーシャルアートの中間領域を積極的に取り上げるのが特徴だ。関西では2000年代の初頭に同様のスペースが数多く誕生したが、月日とともに淘汰された。iTohenはアーティストと観客双方から信任を得た幸福な一例と言える。彼らが、開設10周年を記念した展覧会を開催する。内容は、過去に展覧会を行なった作家たちの小品展だ。画廊の軌跡を振り返りつつ、ギャラリーというシステムの今後を考える場としたい。
2013/11/20(水)(小吹隆文)