2019年12月01日号
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artscapeレビュー

鷹野隆大「香港・深圳 1988」

2013年12月15日号

会期:2013/11/21~2013/12/21

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

小説や詩でも「若書き」の作品というのは独特の存在感を発しているものだ。その作者の後年の作品世界の芽生えが見られることが多いが、逆にまったく異質な手触りを備えている場合もある。鷹野隆大が今回発表した「香港・深圳 1988」も、やはり「若書き」としての面白さが感じられる作品だった。
鷹野は撮影時には25歳。「もはや若いとは言えないものの、当たり前に写真を撮ることを信じていた無邪気な若造」だったという。香港ではまず取り壊しが迫っていた“魔窟”九龍城塞を目指した。首尾よく、かつてその一角に住んでいたという日本語ができる女性と知り合いになり、彼女の案内で“魔窟”の内部も撮影することができた。さらに、当時経済特区として急速に発展していた中国本土の深圳に出向き、市内の縫製工場、アパートなどを撮影した。
今回はそのなかから45点のプリントが展示されている。それらを見ると、鷹野の眼差しがフォト・ジャーナリスト的な物欲しげなものではなく、かといって単なる観光客とも違って、ニュートラルな透明性を保っているのが印象に残った。ことさらな感情移入はないのだが、それでも九龍城塞や深圳の住人たちに寄り添って、彼らの生活の襞々を丁寧に押し広げるようにして撮影しているのだ。このような撮影の経験が、後に彼の代名詞となる男性ヌードを撮影する場面などでも、細やかな気配りとして活かされていったのではないだろうか。彼が、なぜ今頃になってこれらの写真を発表する気になったのかはわからないが、時を経ることで、写真そのものが味わい深く醗酵してきているようにも思える。

2013/11/27(水)(飯沢耕太郎)

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