2019年12月01日号
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artscapeレビュー

上本ひとし「海域」

2013年12月15日号

会期:2013/11/20~2013/12/03

銀座ニコンサロン[東京都]

上本ひとしは1953年、山口県下松生まれの写真家。靴の販売店を営みながら、1970年代から写真撮影を続けてきたが、2001年にニッコールフォトコンテストでニッコール大賞、長岡賞を受賞したのをひとつのきっかけとして、本格的に写真作家としての活動を開始した。以後、写真集『峠越え』(2005年、翌年さがみはら写真新人奨励賞を受賞)、『OIL 2006』(2007)を刊行するなど、旺盛な創作意欲で力作を発表し続けている。
今回発表された「海域」は山口県徳山湾の沖合にある大津島の周辺を撮影したシリーズである。大津島、及びその近くの光、平生には、太平洋戦争末期に「人間魚雷」回天の基地があり、若い兵士たちが訓練にいそしんでいた。回天は操作が難しく、訓練中に死亡する兵士も多かったという。上本はそのような史実を踏まえながらも、あくまでも現在の瀬戸内海の「海域」の眺めを、しっかりと写しとろうと努めた。その結果として、回天の乗組員たちも日々目にしていたであろう「海の色、島影」は、静かな緊張感をたたえた「風景写真」として、きちんと成立していると思う。薄暮の時間に撮影された写真が多いこともあって、会場全体に、遥か彼方へと連れ去られてしまうような寄る辺のなさ、茫漠とした雰囲気が漂っていた。写真を見ながら、「海くれて鴨の声ほのかに白し」という芭蕉の句を思い起こしていた。
なお、本展は2013年12月19日~28日に大阪ニコンサロンに巡回する。また、展覧会にあわせて蒼穹舍から同名の写真集も刊行されている。

2013/11/27(水)(飯沢耕太郎)

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