artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

大島成己 新作展 緑の触覚─haptic green

会期:2013/11/02~2013/11/30

ギャラリーノマル[大阪府]

《haptic green》は、大島が2年前から取り組んでいる写真作品のシリーズで、非日常的な視覚体験をテーマにしている。森の風景を端から順に撮影し、数百枚の写真を合成したものだ。前回の個展では、焦点をひとつのレイヤーに集中させることで、特異な視覚体験を誘発させた。そして今回の新作は、画面内に幾つもの焦点を点在させたものだ。観客は、ありきたりな森の写真を前にして、眼と脳の反応が異なることに戸惑うだろう。そして作品を見続けるうち、自分が未知の視覚体験に誘われた事実に気付かされるのだ。本作にはもうひとつ興味深い特性がある。片目で見ると画面が3Dになるのだ。何とも不思議な作品である。

2013/11/07(木)(小吹隆文)

ジョセフ・クーデルカ展 Retrospective

会期:2013/11/06~2014/01/13

東京国立近代美術館[東京都]

1938年、チェコスロヴァキア出身のジョセフ・クーデルカの日本では最初の本格的な回顧展である。初期作品から「ジプシーズ」(1962~70)、「エグザイルズ」(1970~94)、「カオス」(1986~2012)などの代表作、さらに新作の「Lime(石灰岩)」(2012)まで、300点以上の作品が並ぶ展示は圧巻だった。現代の写真家のなかで、実力、ヴィジョンともに抜きん出た存在であることを見せつける展示だったと思う。
特に興味深かったのは、初期の実験的な作品(1958~64)と、プラハの劇場のために撮影した舞台写真(1962~70)のパートだった。クーデルカは本格的に写真を撮影するようになってからすぐに、ハイコントラスト画像、グラフィック的な効果を活かした単純化や抽象化、いわゆる「アレ・ブレ・ボケ」などの、反写真的な手法を積極的に使った作品を制作していた。これらは後年のドキュメンタリー的な写真とはかなり肌合いが違っている。クーデルカがスタイルを変えたというよりも、「エグザイルズ」や「カオス」の緊密でダイナミックな画面構成の能力が、これらの実験の積み重ねから形をとっていったことがよくわかった。
もうひとつ、これはちょうど上階のコレクション展に森山大道や土田ヒロミの1960~70年代の写真が並んでいたことで気づいたのだが、クーデルカと日本の写真家たちの作品世界には共通性があるように思える。自らの身体性を介した被写体へのアプローチ、常に揺れ動く視点の取り方、祭りや民間儀礼など劇場的な空間に対する強い関心など、かなり似通っているのではないだろうか。クーデルカがジプシーたちを撮影していたのと同じ頃に内藤正敏、須田一政、土田ヒロミ、北井一夫、山田脩二らも、日本各地を移動しながら土俗的な「ムラ」の習俗にカメラを向けていた。まだ明確にその差異と共通性を論じるまでには至っていないが、今後の課題になりそうだ。

2013/11/06(水)(飯沢耕太郎)

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アナト・パルナス「夜気:Stillness of Night」

会期:2013/11/05~2013/11/18

新宿ニコンサロン[東京都]

アナト・パルナス(Anat Parnass)は、1974年、イスラエル・テルアビブ出身の写真家。1995年、20歳の時に初めて東京を訪れ、驚きと懐かしさとを同時に感じたことが忘れられず、大学で日本学を学び、2006年に再来日する。文部科学省の国費留学生制度で日本大学芸術学部写真学科に入学し、2013年に同大学大学院博士課程を修了した。博士論文のテーマは「日本における現代女性写真の研究」である。
今回展示されたのは、彼女が2006年以来撮り続けている、東京とその周辺の夜の景色を撮影した写真群(34点)である。闇の中で息づいている植物たち、灯りに照らし出されて浮かび上がる建築物、どこからともなく湧き出してくる輪郭が定かではない人物たち、夜空に大きく広がる花火──被写体はとりたてて特異なものではないが、それらのすべてが「夜気」に包み込まれることで、どこかアニミスティックな化け物じみた存在に変容し始めているように感じる。このようなミステリアスな影絵芝居を思わせる眺めは、むろん東京に短期滞在している旅行者には撮影不可能だが、逆に日本に生まれ育った者にとってもエキゾチックな光景として見えてくるのが面白い。東京在住の「外人」という、宙吊り状態の彼女の立場をうまく活用して撮り続けていくと、このシリーズのさらなる展開が期待できそうな気がする。
なお展覧会にあわせて、作品20点をおさめた同名の小冊子も刊行された。

2013/11/05(火)(飯沢耕太郎)

JITTER「#01 CCAA」

会期:2013/11/02~2013/11/11

CCAA アートプラザ ランプ坂ギャラリー(ギャラリーランプ1)[東京都]

JITTERは佐藤志保、畠山雄豪、人見将、山元顕史の4人によって結成された写真家グループ。2011年の東川町国際写真フェスティバルの行事の一環として開催されたリコーポートフォリオオーディション(2012年から赤レンガ公開ポートフォリオオーディションと改称)で最優秀賞を受賞したのが北海道札幌市在住の山本で、僅差で優秀象に選ばれたのが佐藤、畠山、人見だった。彼らはその縁で、グループ展を定期的に開催するようになり、2012年には『JITTER』という名前でZineを刊行した。それが今回東京・四谷のCCAAで開催された展示に結びついていったのである。
回を重ねるごとに、彼らの仕事の質は高まりつつある。今回は山本が札幌の「雪捨て場」を真夏に撮影した作品(4点)を、佐藤が「思い出の場所に花を咲かせる」というコンセプトで「オアシス」と題する新作(2点)を、人見がレース布を題材としたフォトグラム作品(5点)を出品した。最も力が入っていたのが畠山の「浸透─プロローグ」で、交差点に立ち「目線の高さより各方向の街の表層が入るように撮影」した写真を、1枚ずつめくれるポートフォリオの形で展示していた。2004年から続けている作業で、すでに5万3千カット以上に達しているという。
僕自身が審査員のひとりだったこともあり、こういう地道な活動がきちんと根づきつつあるのはとても嬉しい。畠山が作品のコメントに書いているように、「足下にある大地には絶え間なく変化する小宇宙が広がっている」のではないだろうか。その宇宙の胎動を、彼ら一人ひとりがしっかりと感じとっていることが伝わってきた。

2013/11/05(火)(飯沢耕太郎)

新具象彫刻展を出発点とした東京造形大学の出身者たち

会期:2013/11/04~2013/12/07

東京造形大学付属美術館[東京都]

ベタなタイトルだが、この「新具象彫刻展」というのは1976-85年の10年間、都美術館に集結した具象彫刻を目指す美大生たちのグループ展のこと。同展では、そのうち造形大出身者による作品を、「新具象彫刻展」出品作と、それ以降の作品、近作の3段階に分けて展示している。出品は中ハシ克シゲ、舟越桂、三木俊治、山崎豊三ら7人で、世代的には1945-55年生まれになる。みな出発点(つまり「新具象彫刻展」出品作品)は似たような具象だが、徐々に大きく姿を変えていくプロセスがうかがえて興味深い。とくに中ハシ克シゲの初期の鉄の具象からポップを経て、近年の戦闘機のフォト彫刻へと展開していく変貌ぶりは見ていて気分がいい。それに比べりゃ舟越桂などはあまり変化がないほうだ。こうして時間軸に沿って見ていくと、具象彫刻も捨てたもんではないなーと思う。ところで、屋外に1点、立方体のゲージに囲われたゴミの固まりが置かれていた。これは、原爆症で逝った殿敷侃が日本海に流れ着いた漂着ゴミを焼いて固めたものを、4半世紀後に三木俊治が発見し、福島原発の建屋を模したゲージに納めて作品に仕上げたものだそうだ。これは具象彫刻というより具体彫刻だ。

2013/11/04(月)(村田真)

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