artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

鉄道芸術祭 vol.3 松岡正剛プロデュース「上方遊歩46景~言葉・本・名物による展覧会~

会期:2013/10/22~2013/12/25

京阪電車なにわ橋駅「アートエリアB1」[大阪府]

京阪なにわ橋駅アートエリアB1の鉄道芸術祭「上方遊歩46景」を見る。松岡正剛のプロデュースによるもので、さまざまな場所についての「言葉・本・名物による展覧会」だ。パネルではなく、天井に届く白い円柱を林立させ、表面に言葉、裏面にモノや本を展示する会場構成のインスタレーションがよかった。

2013/11/10(日)(五十嵐太郎)

あなたの肖像──工藤哲巳 回顧展

会期:2013/11/02~2014/01/19

国立国際美術館[大阪府]

国立国際美術館の工藤哲巳回顧展「あなたの肖像」を鑑賞した。これまで断片的に青森や国立国際などで何度も彼の作品を見たが、初期のアンフォルメル風から、アンデパンダンの「反芸術」、西欧でのヒューマニズム攻撃、70年代の内省化、そして晩年の日本社会を問う作品まで一同に集まると、力強く、壮観である。これだけ大量の男根が陳列される展覧会もそうないだろう。一時のネタではなく、生涯こだわったモチーフであることがよくわかる。筆者がイメージする日本のどろどろとした情念的な前衛芸術家そのものだ(女性なら草間)。今回の展示で、千葉県房総の鋸山の岩壁に高さ25m近い巨大な男根/サナギのレリーフも制作したことを初めて知った。もうひとつ驚いたのが、カタログの分厚さである。640ページくらいか。展示作品だけではなく、巻末にレゾネとなる「工藤哲巳総目録1955-1988」も付しているからだ。なお、常設では、彼に関心をもったマイク・ケリーとマッカーシーの作品も紹介している。

2013/11/10(日)(五十嵐太郎)

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TRANS ARTS TOKYO 2013

会期:2013/10/19~2013/11/10

3331 Arts Chiyoda、旧東京電機大学7号館地下、神田錦町共同ビルほか[東京都]

昨年、旧東京電機大学の校舎を丸ごと使って大きな話題を集めたTATが、今年は同じ神田で会場をいくつかに分散して開催された。展示会場となったのは、工事中の地下空間をはじめ、空きビルや商業ビルなど。エレベーターが設置されていない古いビルが多いせいか、狭い階段を何度も昇り降りしながら作品を鑑賞するという仕掛けだ。動線がほぼ垂直方向に限定されていた前回とは対照的に、文字どおり都市を縫うように練り歩く経験が楽しい。
とはいえ、そこかしこに展示されていた作品には、ある種の定型に収まる傾向が認められたことは否定できない。それは、乱雑で猥雑、雑然とした作品があまりにも多かったこと。これは「天才ハイスクール!!!!」や「どくろ興行」が輝いていた前回から続く本展の特色なのかもしれない。ただ、仮にそうだとしても、そうしたアナーキーな色調が際立っていたのは、取り壊しが決定していたとはいえ、大学の校舎という確固とした白い壁面があってこそだった。しかし今回、とりわけ古い雑居ビルを展示会場とした雑多な作品の数々は、不本意ではあるだろうが、雑然とした空間に溶けこんでしまっていたように思われた。
その点で言えば、地と図を際立たせることに成功していたのは、林可奈子である。路上のパフォーマンスを映像インスタレーションとして見せる作品は、映像のなかの身体動作の点でも、モニターを立ち並べた展示の点でも、きわめてシンプルであるがゆえに、周囲の乱雑な空間とは明確に一線を画していた。むろん、静謐で上品な作品がなかったわけではない。けれども、林の作品がそうした中庸な「現代アート」と似て非なるものであったのは、やはり映像で見せた身体パフォーマンスの質に由来する。路上をでんぐり返しで進んだり、街角の凹凸に身体を当てはめたり、林の身体所作は品位を保ちながらも、どこかでひそやかな狂気を感じさせていたからだ。基準と逸脱のバランスが絶妙だったと言ってもいい。
一定のリズムで、しかし、通常の所作とは異なるかたちで歩んでゆく林の奇妙なパフォーマンス。そこには、本展を鑑賞する私たち自身が重ねられているように見えた。空洞化した都市に充填されたアートを見て歩く行為が、日常からわずかに逸れているからだけではない。林も私たちも、ともに都市の隙間と隙間を縫い合わせているように思われたからだ。林が路上に残した足跡と、私たちが神田の街を踏破した痕跡は、いずれもその縫合を示すステッチである。そのことに気づいたとき、都市はそれまでとはまったく異なる全貌を露わにするだろう。

2013/11/10(日)(福住廉)

高木智広「此方×彼方」

会期:2013/10/29~2013/11/10

Gallery PARC[京都府]

自然と人間の関係をテーマに制作を続けている高木智広は、おもに京都や東京で発表を行なってきた活動歴も長い作家だが、個展を見たのは私は今回が初めてだった。一角獣や、身体が動物と混じり合い一体化した人間など、青みを帯びた色彩の背景に不思議な生き物たちが浮かぶ一連の絵画、薄い膜のように張られた半透明のシート向こう側で、ときどき剥製動物の眼が光るというインスタレーションで会場は構成されていた。全体に独特の不気味さとユーモアをまとった神秘的な雰囲気だが、夢の世界や「向こう側」の世界、その境界というよりも、むしろ現実に存在するがまだ見たことのない地続きの世界に想像が巡っていく。描くモチーフのイメージについては、初めからあるわけではなく、筆を動かしているうちに次第にあぶり出されていく感じだという高木の言葉も印象に残った展覧会。


展示風景

2013/11/09(土)(酒井千穂)

假象の創造──カショウノソウゾウ

会期:2013/10/23~2013/11/24

文京区立森鴎外記念館[東京都]

倉林靖のディレクションで、赤崎みまと袴田京太朗が出品する現代美術展。なんで鴎外記念館で現代美術展なのかといえば、「鴎外の美術への関心を現在に結びつける試み」だそうだ。エントランス正面の壁に長さ2、3メートルほどある恐竜の化石のような異形の物体が飾られているが、これは数体のクマの木彫をスライスしてつなげた袴田の作品。知らない人が見たら驚くだろう。これを「鴎外が、自ら吸収した西洋思想によって日本文化を再構築しようとした姿勢が、まさにそのまま表されている」などとこじつけることもないだろうに。まあ公的施設だから現代美術を見せるにもなにかしら納得できる理由づけが必要なのかも。でもこういう場所だからこそ理由なき唐突な出会いがあってもいい。

2013/11/08(金)(村田真)