artscapeレビュー

殿村任香「ゼィコードゥミーユカリ/母恋ハハ・ラブ」

2013年09月15日号

Zen Foto Gallery[東京都]

会期:2013/7/31~9/7(8/11~16休)

殿村任香(とのむらひでか)のデビュー作『母恋ハハ・ラブ』(赤々舎、2008)は「女としての母、あるいは母としての女」の像を鮮烈に描き出して、見る者に重い衝撃を与える写真集だった。今回のZen Foto Galleryでのひさびさの個展には、その続編にあたる「ゼィコードゥミーユカリ」が展示されていた。闇の中にうごめく被写体を、手探りし、抱き寄せ、肌を擦りつけるように撮影していく撮影の仕方に変わりはない。だがその視線の強度と生々しさは、さらに強まっているように感じられる。
2008~2009年にかけて集中して撮影されたこのシリーズは、殿村の「歌舞伎町時代」の産物だという。新宿・歌舞伎町のお店では、彼女は「ユカリ」という源氏名を使っていて、それが今回のタイトルの由来になっている。前作のようなストーリー性はむしろ薄められており、至近距離から赤っぽい色調で撮影された男女の姿は、一瞬浮かび上がっては、再び濃い闇の奥に沈んでいく。その点滅を目で追ううちに、「もののあはれ」としか言いようのない感情が、押さえきれずに湧き上がって来るのを感じた。日本人の心性に強く根付いている無常観が、濃密な性の営みの描写を通して浮かび上がってくるのだ。
ふと、こういう作品がヨーロッパやアメリカでどんな評価を受けるのかを確かめたくなった。どこかで殿村の本格的な展覧会を開催できないだろうか。なお展示に合わせて、Zen Foto Galleryから同名の写真集も刊行されている。

2013/08/03(土)(飯沢耕太郎)

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