artscapeレビュー

田附勝『東北』

2011年09月15日号

発行所:リトルモア

発行日:2011年7月30日

東日本大震災を契機に多くの作品の意味が変わってしまった。田附勝の新しい写真集『東北』もそのひとつだろう。2006年から東北6県の「山の民と海の民」の暮らしぶり、祭りや年中行事、風景やオブジェを6×6判のカメラで丹念に蒐集・記録した写真集である。闇の奥からぐっと前に迫り出してくるような写真群は、魂を直に揺さぶるような迫力がある。こってりと、ディープな色味を強調したカラー写真も、前作『DECOTORA』(リトルモア、2007年)以来の田附のトレードマークとして定着してきた。
だが、「3・11」によって、彼のなかにこのまま写真集を出していいのかという疑いが芽生えたようだ。岩手県釜石市で撮影された「April 1, 2011」の日付がある2枚の写真が、巻末に付け加えられている。だが重要なことは、この写真集に写しとられている風土と人物のたたずまいそのものが、東北の地霊を呼び出すような力を秘めていることだろう。以前、岡本太郎が1950~60年代に撮影した日本各地の祭礼の写真を見ていて、東北と沖縄の写真だけが突出したエネルギーの波動を感じさせるのに驚いたことがある。田附の『東北』からも、この土地に縄文以来のシャーマニズムの伝統がしっかりと根づいていることが伝わってきた。
おそらく震災以後、東北は大きく変貌せざるをえないだろう。何が変わり、何が続いていくのか、できれば田附にはこれ以後も長く撮影を続けていってほしい。

2011/08/12(金)(飯沢耕太郎)

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