artscapeレビュー

『倉俣史朗 着想のかたち──4人のクリエイターが語る。』

2011年06月01日号

編著者:鈴木紀慶、平野啓一郎、伊東豊雄、小池一子、深澤直人、川床優
発行日:2011年3月9日
発行:六耀社
価格:2,100円
サイズ:B6判、184ページ

本書は1960年代から1990年代初頭にかけて日本の商業インテリアデザインとプロダクトデザインを牽引したデザイナー、倉俣史朗(1934-1991)について、4人のクリエイターにインタビューを行ない、それを収録したものである。掲載順に小説家の平野啓一郎氏、建築家の伊東豊雄氏、クリエイティブディレクターの小池一子氏、プロダクトデザイナーの深澤直人氏へのインタビューが収められているが、もし、小池氏、伊東氏、深澤氏、平野氏の順に読めば、倉俣のデザインについての入門書として本書は読めるかもしれない。小池氏は倉俣の活動していた時代のアート・デザイン・ファッションの交錯の状況、伊東氏は建築とインテリアの関係性と差異からみた倉俣デザイン、そして深澤氏はデザインとしての倉俣デザインの特異性、という視点からおのおの語っているからだ。異色なのは造形ではなく言葉を生業とする平野氏へのインタビューで、小説の創作プロセスとデザインのそれとの関わりがおもに語られている。インタビュ─以外に倉俣自身の言葉も本書は収めている。
倉俣のデザインは生前から注目されたため、これまで多数の批評や本人による言説が発表されているが、その大部分は雑誌掲載記事である。したがって、倉俣の同時代人である小池氏と伊東氏の章が過去の言説の繰り返しの感は否めず(実際、両人とも過去に倉俣に関する文をさんざん執筆しているのだから仕方がない)、深澤氏による倉俣の解釈もやや新鮮味を欠くとはいえ、それらがバラバラな記事ではなく単行書としてまとめられたことは意義深い。しかし、どのインタビューにも言えるのは、示唆的な言葉が登場し、その意味を知りたいと思っても、別の話題にすぐ移ってしまうことだ。これは、インタビュー形式ゆえの難点だろう。平野氏の章では、デザイン一般に対する彼の考えが語られているのは興味深かったが、結局それと倉俣デザインに対する彼の思いがどう繋がっていくのかがわからなかった。インタビューではなくエッセイの形式をとれば、こうした未消化な部分は避けられたように思う。
日本では1960年代以降のデザインの流れがいまだ検証されていないという現況があり、それが本書(に限らないが)がもたらす未消化な読後感の遠因には違いない。最後の川床優氏によるエピローグは、それを補うべくデザインの歩みの中に倉俣を位置づけようとする意図がうかがえた。例えば美術史、建築史のようにデザイン史が普及している状況があれば、深澤氏などは、倉俣についての基本的な理解から話し始めることをせず、もっと彼自身の独創的な解釈を授けられたのではないか。本書が示唆するコンセプチュアルな側面からのデザイン研究の成熟が望まれる。[橋本啓子]

2011/05/20(金)(SYNK)

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