artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

平野暁臣『空間メディア入門』

発行所:イーストプレス

発行日:2009年12月

著者は建築出身の空間メディアプロデューサーである。岡本太郎のお別れの会、六本木ヒルズのアリーナのイベント、リスボンやタイにおける展示企画、「明日の神話」再生プロジェクトなどを手がけるほか、岡本太郎記念館の館長をつとめている人物だ。本書は、全体を「空間で語る」「空間を活かす」「空間に求める」の三部構成としつつ、細かくは見開きの単位による87のトピックに分けて、空間づくりの方法論を講義形式で語っている。いずれも抽象的な理論というよりも、彼が実感した現場の教えをもとにしており、説得力をもつ。イベントという場をつくるにしても、それが空間と結びつくのは、建築を最初に学んだからなのだろう。インターネットの時代に、現実の空間メディアがどうあるべきかを考えるうえでも示唆に富む。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

ロジャー・ディーン『ドラゴンズドリーム ロジャー・ディーン幻想画集』

発行所:ブルース・インターアクションズ

発行日:2009年12月4日

まだ小さなサイズのCDではなかった時代、ASIAやYESのアルバムで穴があくほど見つめたジャケットのアートワークの数々。展覧会など開催しなくても、プログレのバンドを通じて、一度見たら忘れられない幻想的なランドスケープは広く知られるようになった。ロジャー・ディーンのドローイングは、いつも時空を超えた遠い世界を感じさせる。序章のテキストで初めて知ったのだが、彼は学生だった1967年に探求していた建築原理の本を書こうと考えたり、修士号では建築の研究をやっていたという。そしてコンピューター・ゲームの背景の建築画も手がけている。この画集の最後を飾るのは、第8章「建造物」だ。実際、彼はマレーシアの公園やトルコのディスコ、エコ・ヴィレッジやマウンテン・リゾート、ホテルや砂漠の教会などの仕事も依頼されている。これらのぐにゃぐにゃの有機的なデザインからは、1960年代の実験建築の影響を受けていることもうかがわれ、興味深い。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

「槇研の本」編集委員会『都市のあこがれ──東京大学槇文彦研究室のその後とこれから』

発行所:鹿島出版会

発行日:2009年10月

東京大学における槇研究室の卒業生が、学んだことを現在の視点から振り返るエッセイを集めた本である。卒業生はさまざまな活動に関わっているが、やはり寄稿したOB、OGは、教員になっている人が多い! 全体としては、テーマごとに7章に分けているが、タイトルにも使われているように、「都市」のキーワードが多い。都市との対話から建築をデザインしていく姿勢がうかがえるだろう。『見えがくれする都市』への参照も目立ち、研究室のバイブルだったことがわかる。槇文彦は、1979年から89年まで教鞭をとっており、筆者もちょうどその最後の頃に学部生だったので、設計のエスキスを受けたことがある。また同書には、赤川貴雄、新堀学、本江正茂、鹿野正樹らの同級生が寄稿している。巻末には各年の論文タイトルの一覧もつく。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

隈研吾建築都市設計事務所『スタディーズ・イン・オーガニック』

発行所:TOTO出版

発行日:2009年10月15日

大量のスタディ模型を並べたギャラリー間の隈研吾展にあわせて刊行されたカタログ的な本である。21世紀に入り、彼は驚くべき勢いで、海外で数多くのプロジェクトを手がけ、事務所のスタッフも急増した。本書では、建築の姿を消していく「コンター」、建築を構成する粒子を操作していく「テクスチャー」、生命体のような形態に向かう「オーガニゼイション」という3つのキーワードによって、近作を分類している。旧作はもちろん、オープンしたばかりの根津美術館という最新作もなく、これからのプロジェクトを紹介しており、いまもっとも脂がのっている建築事務所であることを印象づけるだろう。そう、現在進行形なのだ。本書の冒頭には「消去から有機体へ」というバイリンガルの論文を寄せている。そして1980年代のポストモダンから現在までの活動を振り返りながら、新しい有機的建築が宣言されるのだ。生物のメタファーが語られるが、フランク・ロイド・ライトやメタボリズムとも違う。新しい生物観にたった有機的建築の再定義を試みようとしている。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

Fran oise Choay, “L’urbanisme, utopies et réalités”

発行所:Seuil

発行日:1965年

フランスの都市学者フランソワーズ・ショエ(1925-)による編纂の、都市理論に関するアンソロジー。ユルバニスムという学問を遡及的に明確化し、再定義した本のひとつ。タイトルを訳せば「都市計画(ユルバニスム)、ユートピアと現実」。19世紀から第二次世界大戦までの都市理論で「ユルバニスム」という学問を形成してきたものから重要な論考が集められており、冒頭の「都市計画という問題(L’urbanisme en question)」というショエによる80ページ程度の論考が、本書の意図を説明している。プレ・ユルバニスムとユルバニスム、急進派と文化派という二つの軸によって大きく各テキストの著者が分類されている。例えば、R. オーエンやJ=B. ゴダンはプレ・ユルバニスム急進派、J. ラスキンやW. モリスはプレ・ユルバニスム文化派、T. ガルニエやル・コルビュジエはユルバニスム急進派、C. ジッテやE. ハワードはユルバニスム文化派に分類されている。プレ・ユルバニスムは理想主義的で政治的であるのに対し、ユルバニスムは現実的で建築家によるものが多い。急進派が合理性から特異な解に至るのに対して、文化派は調和的な方向性をもつといえるかもしれない。さらにモデルのないもの、自然派、テクノトピア、人間的都市、都市の哲学などいくつかの項目が加えられている。なお、ショエの次の重要な著作は”La R gle et le Mod le : Sur la théorie de l'architecture et de l'urbanisme”(1980)(未邦訳『規則とモデル:建築とユルバニスムの理論について』)であり、アルベルティとトマス・モアの著作を中心とした流れの中で、さらに包括的な形で、都市建築理論が展開されている。

2009/12/27(日)(松田達)