artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

アトリエ・ワン『空間の響き/響きの空間』

発行所:INAX出版

発行日:2009年10月10日

現代建築家コンセプト・シリーズの第五弾である。いくつかの写真が挿入されているものの、基本的に自作の紹介はほとんどない。アトリエ・ワンのエッセイ集となっている。彼らが都市を観察し、普段、どのようなことを考えているかを綴ったものだ。動物、虫採り、トンカツ屋、スポーツ、ワールドカップなど、アトリエ・ワンらしい切り口から、独自の空間論が展開していく。一見ばらばらのようだが、全体としてはゆるやかな現代東京論にもなっている。言うまでもなく、彼らが拠点とする都市だ。世界との比較も交えながら、場所の響きに耳を澄ませる日常の観察は、必然的に身のまわりのユニークさを浮上させる。個人的には、立派な建築が都市空間にうまくはまっていないために、首都高速などの土木構築物が結果的に近代のモニュメントになったというエッセイ「東京のモニュメント」をとくに興味深く読んだ。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

『建築ノート EXTRA UNITED PROJET FILES 03』

発行所:誠文堂新光社

発行日:2009年12月20日

「建築ノート」での妹島和世+西沢立衛/SANAAの特集号である。27の最新プロジェクトの紹介に加え、SANAA、妹島事務所、西沢事務所のプロジェクトそれぞれが色別となった、1/2000でそろえられたプロジェクトの図面集、クロニクルデータなど、SANAAを知るための新しい視点が見つけられそう。これだけでもこの号は実に魅力的なのであるが、加えてニューヨークのアーキテクト特集、世界で活躍する日本人建築家(歴史的にも掘り下げてある)特集もある。特に気になったページをいくつか。『Volume』の全号紹介ページは、2ページにつめられた情報量がすごい。ユーロパン特集ページは、ヨーロッパで知られるものの、日本であまり紹介されてこなかったユーロパンという重要なコンペについて。過去の実現案がまとめられている。建築教育国際会議(IAES)についての今村創平氏のレポートも、過去の磯崎新や伊東豊雄の言説から振り返るなど充実していた。この雑誌(正確にはムック)は、実はバイリンガルなので、海外で知られ始めたときの影響力も強いだろうと感じた。

2009/11/29(日)(松田達)

『a+u 2006年11月臨時増刊 セシル・バルモンド』

発行所:エー・アンド・ユー

発行日:2006年10月30日

日本語で読めるセシル・バルモンドの作品集として、もっともまとまっている本だと言えるだろう。セシル・バルモンドはスリランカ出身の構造家であり、オヴ・アラップ&パートナーズで30年間勤務し、OMAやダニエル・リベスキンド、伊東豊雄ら世界的な建築家らと、さまざまの挑戦的なプロジェクトに参加してきた。彼らの革新的なアイディアを建築化するうえで、決定的に重要な構造的アイディアが、バルモンドからいかに出てきたのかを見ることができるだろう。間違いなく、世界でもっとも刺激的な構造家であるといってよい。本書は、セシルのこれまでの軌跡を、グリッド、生成するライン、数字、先端幾何学ユニット、デリリウム(錯乱)といったいくつかのカテゴリーに分けて追っている。ほとんど数学者であり哲学者であるともいえるような思考展開が、彼のスケッチやちりばめられた文章から見えてくる。しかしむしろ彼は音楽家だといえるかもしれない。彼の音楽好きは有名であり、「音楽としての構造」というテキストが示しているように、彼の構造の根幹にはリズムがある。そう思って本書を開いていくと、まるで音楽が聴こえてくるかのような本にみえてきた。なお、2010年1月16日から3月22日まで、東京オペラシティアートギャラリーにて「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」展が開催される。体験型の展覧会だと聞いており、展示が期待される。

関連URL:http://www.operacity.jp/ag/exh114/

2009/11/28(土)(松田達)

遠藤秀平編『ネクストアーキテクト2 カケル建築家』

発行所:学芸出版社

発行日:2009年8月10日

とにかく読みやすい本である。本書は『ネクストアーキテクト 8人はこうして建築家になった』の続編である。遠藤秀平氏が8人の建築家、構造家、計画者たち(千葉学、長坂大、小野田泰明、曽我部昌史、乾久美子、陶器浩一、芦澤竜一、金田充弘の各氏)にインタビューをし、子供時代の体験から現在までをそれぞれ語ってもらっている。「理論」ではなく「原体験」の重要性を、前著よりさらに大きく感じたことが明記されている。そして「理論」より生理的な「勘」が重要であると。インタビューも、生い立ちから、現在までのさまざまな苦労や体験について語られる。おそらく理論的な話は意図的に抜かされている。本書は、特に何かの節目や分かれ目において悩んでいる建築学生に大きな勇気を与えるだろう。現在活躍している建築家も、多くの節目で悩んできたことがわかるから。また、インタビューされている建築家たちは、主に30代、40代であるため、学生にとっては、少し前の時代に何があったのか、近過去を知ることもできるだろう。本を読むというより、先輩たちの話を聞くという形で手にとってみると、想像以上の収穫のある本だと確信を持って言える。

2009/11/19(木)(松田達)

カタログ&ブックス│2009年11月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

DEEP IMAGES──映像は生きるために必要か

発行日:2009年11月16日
発行:フィルムア─ト社
価格:1,890円(税込)
サイズ:B5判変

CREAM ヨコハマ国際映像祭の公式カタログ。映像が氾濫し、単に鑑賞することだけでなく、大衆が映像を利用する側へと変わりつつある現代で、表面的に捉えるのではなく、より深い意味での映像を再構築するため、映像作家や、さまざまな地域の気鋭の論考を紹介。


Studies in Organic Kengo Kuma & Associates

著者:隈研吾建築都市設計事務所
ブックデザイン:中島秀樹 発行日:2009年10月
発行:TOTO出版
価格:1,680円(税込)
サイズ:B6

GALLERY間での展覧会に合わせて出版された書籍。隈研吾の最新プロジェクトからコンペ案、初期の代表作まで36作品を「有機的」という観点から編集されている。


日本写真集史 1956-1986

著者:金子隆一、アイヴァン・ヴァルタニアン、和田京子
発行日:2009年10月
発行:赤々舎
価格:3,990円(税込)
サイズ:A4

60年代から70年代にかけての写真黄金期につくられた歴史的に重要な写真集から、希少本や私家版など含め、多種多様な60作に及ぶ写真集を、写真誌の研究者でもあり、写真コレクターでもある金子隆一が紹介。いまではほとんど見ることが不可能な写真集の画像やそれに関するエピソ─ドも掲載されている。


YCAM WORKSHOPS

発行日:2009年
発行:山口情報芸術センター
企画協力:江渡浩一郎/クワクボリョウタ/産業技術総合研究所/dNA(bouble Nagative Architecture)/鳴川肇
サイズ:約18x18cm

山口情報芸術センターでの展覧会の関連企画や教育的な観点から行なわれたワークショップのカタログ。合計6冊のカラフルな冊子で構成され、それぞれにワークショップの構想、会場構成、ワークショップ修了の分析やコメントなどがまとめられている。

2009/11/17(火)(artscape編集部)