artscapeレビュー
アトリエ・ワン『空間の響き/響きの空間』
2009年12月15日号
発行所:INAX出版
発行日:2009年10月10日
現代建築家コンセプト・シリーズの第五弾である。いくつかの写真が挿入されているものの、基本的に自作の紹介はほとんどない。アトリエ・ワンのエッセイ集となっている。彼らが都市を観察し、普段、どのようなことを考えているかを綴ったものだ。動物、虫採り、トンカツ屋、スポーツ、ワールドカップなど、アトリエ・ワンらしい切り口から、独自の空間論が展開していく。一見ばらばらのようだが、全体としてはゆるやかな現代東京論にもなっている。言うまでもなく、彼らが拠点とする都市だ。世界との比較も交えながら、場所の響きに耳を澄ませる日常の観察は、必然的に身のまわりのユニークさを浮上させる。個人的には、立派な建築が都市空間にうまくはまっていないために、首都高速などの土木構築物が結果的に近代のモニュメントになったというエッセイ「東京のモニュメント」をとくに興味深く読んだ。
2009/11/30(月)(五十嵐太郎)