2019年06月15日号
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artscapeレビュー

杉浦貴美子『壁の本』

2009年10月15日号

発行所:洋泉社

発行日:2009年9月3日

カバーに「街中に絵があふれている」と書かれたように、壁を撮影する「壁嬢」(石川初・談)こと、杉浦貴美子による初の写真集である。壁の写真といえば、筆者が編集委員長を担当している『建築雑誌』の表紙である、赤や緑など、全体がひとつの色に塗られたさまざまな壁を撮影する、佐々木光のシリーズもそうだが、杉浦のそれはさまざまな要素といろいろな色がせめぎあうキャンバスとして壁を切りとる。その結果、厳選された写真は、偶発的に生まれたコラージュだったり、抽象絵画のような美しさをもつ。巻末の絵解きも愉しい。一方、写真家の小山泰治は、超高解像度のデジタル写真によって東京の表面をスキャンしていくが、もとの意味を引きはがし、宇宙の誕生を目撃するかのような壮大なイメージを与える。こうして比較すると、杉浦の『壁の本』は、壁の履歴に注目し、路上観察学にも通じる対象への愛を強く感じさせるものだ。

2009/09/30(水)(五十嵐太郎)

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