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artscapeレビュー

存本彌生『わたしの獣たち』

2016年01月15日号

発行所:青幻舎

発行日:2015/11/25

ヒオス島(ギリシャ)、セビリア(スペイン)、神戸(日本)、ミュンヘン(ドイツ)、サンクトペテルブルク(ロシア)、シェトランド(スコットランド)、ゴーダ(オランダ)、コチコル(キルギス)……。在本彌生の写真集『わたしの獣たち』の写真の撮影場所を、掲載順に記すとこんな具合になる。彼女が旅の写真家であることは一目瞭然だろう。ジェット機の時代の写真家の中でも、在本の移動距離の大きさは突出している。そういえば、彼女の最初の写真集『MAGICAL TRANSIT DAYS』(アートビートパブリッシャーズ、2006)も旅と移動の産物だった。それから9年ぶりになる、この新作写真集を見ていると、在本の「世界に潜む美を探し求める」アンテナの精度が、より研ぎ澄まされてきているのを感じる。
とはいえ、その探索の旅は、けっして肩肘を張って狙いをつけるようなものではない。むしろ被写体の幅を大きくとり、目に飛び込むものを片端から撮影しているように見える。だがそれらの雑多なイメージの流れに身を委ねていると、何か柔らかく、大きな塊のようなものが浮かび上がっているように感じる。例えば、何度か登場する「馬」のイメージもそのひとつだろう。在本にとって、「馬」は好きな被写体という以上に、生命力そのものの在処をさし示す、神話的、根源的な生きものなのではないだろうか。「馬」だけではなく、彼女の写真には出会うべくして出会ったという確信がみなぎっているものが多い。こういう写真集のページを繰っていると、自分も旅に出たいという、ひりつくような渇望の思いに駆られてしまう。

2015/12/07(月)(飯沢耕太郎)

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