artscapeレビュー

梅佳代『のと』

2013年07月15日号

発行所:新潮社

発行日:2013年4月25日

東京オペラシティアートギャラリーで開催された「梅佳代展」(2013年4月13日~6月23日)に合わせるかたちで、写真集『のと』が刊行された。以前この欄で、「そこに住む家族と故郷の人々を愛おしさと批評的な距離感を絶妙にブレンドして撮り続けているこの連作は、梅佳代にとってライフワークとなるべきものだろう」と書いたのだが、その直感がまさに的中しつつあることが、この写真集で証明されたのではないかと思う。
日付入りコンパクトカメラで撮影されている写真が多いので、撮影年月日を特定しやすいのだが、それを見ると2002年頃から13年まで、10年以上のスパンに達している。生まれ故郷の石川県能都町との関係は、100歳近い「じいちゃんさま」の存在もあって、梅佳代にとって特別濃いものなのだろう。これから先も長く撮り続けていくことになるだろうし、さらにシリーズとしての厚みを増すにつれて「撮れそうで撮れない」彼女の写真の希少価値が際立ってくるのではないだろうか。
とはいえ、梅佳代の『のと』では、多くの写真家たちが取り組んでいるような地域の特殊性が強調されることはほとんどない。冬の雪の光景や「能登のお祭り館 キリコ会館」のような珍しい場所が、たまたま背景として写り込んでいることがあっても、多くの写真にあらわれているのはピースマークを出してカメラに笑いかける中高生のような、日本のどの地域でもありそうな情景ばかりだ。誰が見ても既視感に誘われる写真ばかりなのだが、全体を通してみると「これが『のと』」としかいいようのないゆるゆるとした空気感が、しっかり写り込んでいることに気がつく。
植田正治の山陰の光景のように、梅佳代の『のと』も、ローカルでありながら普遍的な写真のあり方を指し示しているともいえる。こうなると日本以外のアジアやヨーロッパの観客が、これらの写真にどんなふうに反応するかも知りたくなってくる。

2013/02/11(月)(飯沢耕太郎)

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