artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

野井成正の表現──外から内へ/内から外へ

会期:2011/04/26~2011/07/03

中之島デザインミュージアム「de sign de」[大阪府]

2011年4月に大阪・中之島にオープンした「中之島デザインミュージアム de sign de」の開館記念展。川沿いに立つミニマル・デザインの建物に入ると、入口の西側スペースがカフェ、東側が展示室になっている。70平方メートルの展示室には、夥しい数の間伐材の柱が所狭しと立ち並び、その上部を無数の梁板がランダムに走る。これは、空間デザイナーの野井成正が新たに考案した「間伐材による移動可能なシステムキット・インテリア」であり、4本の柱と4本の梁板を最小単位として釘やねじを使わず組み立てが可能だ。つまり、一見、現代美術のインスタレーションに見えるこの展示は、installation(=取り付け、設置)の原義にふさわしく用を備えている。確かに、工事現場のような間伐材の林の中に入ると、どこに壁を立てて、廊下を設けようかなど、本能的に考えてしまう。これも野井の空間の成せるマジックなのか。
そう思いつつ2階に向かうと、階段で野井の椅子たちと目があう。荒々しい間伐材の空間とは対極的な、繊細なオブジェのような椅子である。2階で待ち受けていたのは、無数の竹が天井からつり下がるインスタレーションだった。竹の林を抜け、壁面に近づくと、人々のいる風景を描いた抽象的なドローイングが広がり、その横には野井が過去に手がけたバーや店舗インテリアの写真とマケットが飾られている。インテリアや建築は展示がしづらいジャンルだが、このように内部写真と模型を一度に見ることができるとわかりやすい。また、インスタレーションと壁面のドローイングに身体を取り巻かれる体験は、商業空間において野井が立ち上がらせようとする「風景」がなんであるのかを気づかせてくれる。
展覧会の副題「外から内へ/内から外へ」にあるとおり、木と竹のインスタレーションは内でも外でもない空間、もしくは室内と屋外(木、竹のある外)がときに反転するような空間である。このトポロジー性はまさにインテリアデザインの本質といって良いだろう。それは、建築の内部という与件を超越するものとして、インテリア・デザイナーたちが現前させようとする彼方の世界に他ならないのだ。今回の野井展は、商業インテリアを手がけるデザイナーという展覧会の対象としては稀なジャンルを採り上げた画期的な試みであり(しかも東京ではなく大阪である!)、会期中にはデザイナーによる対談やBARでの集いなど多数のイベントが用意されている。詳しくは、ウェブサイトを参照されたい。[橋本啓子]

2011/05/14(土)(SYNK)

愉快な家展──西村伊作の建築

会期:2011/03/05~2011/05/19

INAXギャラリー大阪[大阪府]

文化学院の設立者として知られる西村伊作の、快適な住まいを追求した試みと建築作品を紹介する展覧会。西村がフリーハンドで書いた図面のパネル・建築写真を見て、大正デモクラシーの時代における生活改善、文化的に快適な生活を提案したその活動の意義を改めて考えさせられた。著述家として名を成し、住宅建築の第一人者とみなされた西村の実践は、勇壮な使命感を感じさせず軽やかだ。著書『楽しき住家』(1919)に掲載された《自邸III》の手書きの平面図が表わすように、愉快な生活を営む細々とした工夫を、日々の生活のなかから楽しんで創案したように思える。家長を中心とする間取りを排して、家族の団欒を主体にした居間中心の間取りへ。百年前に、自前でつくった給排水システム、庭には野菜畑や果樹園があって、自給自足のできる暮らし。そしてその建築は、なによりも芸術と生活に密着している。絵画と陶芸を嗜み、建築と教育活動に邁進していった西村は、すべて独学であっただけでなく「自らの手でつくること」を重視している。本展で展示された、彼の簡素でいてあたたかみのある家具──青のタイルを張った化粧台や機能的な青色の居間用椅子──、子どもにデザインした洋服、照明などのアイディアを書きとめたスケッチブックなどを見るにつけ、彼が自分の手を動かして一つひとつ身辺の事物をつくり、理想郷を創りあげていったことがわかる。加えて、ユートピア的社会主義者の姿、日本の土着的な要素を残した趣ある建築、実直な家具、富本憲吉との交流。これらはみな、西村とウィリアム・モリスとの影響関係を思い起こさせる。そのとおり、筆者は本展の資料から、英国と日本なのだから一見まったく違うのだが、西村自邸とモリスの《レッド・ハウス》──あの詩情あふれる夢のような住まい──に共通する精神性を見た。[竹内有子]

2011/05/12(木)(SYNK)

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ゴーゴーミッフィー展

会期:2011/05/03~2011/05/15

大丸ミュージアム梅田[大阪府]

誰しも子どものころ「うさこちゃん」の絵本に一度ならずとも親しんだだろう。本展はそのミッフィー生誕55周年を記念し、初期から近作まで8作の絵本原画やスケッチなど、約200点の日本初公開作品が展示された。たんなる有名絵本作家としてではなくて、グラフィック・デザイナーとしてのディック・ブルーナの本領を充分に堪能できる展覧会だ。父が経営する会社で手掛けた、ペーパーバック《ブラック・ベア》シリーズの装丁とポスター・デザインの数々。簡潔にして目をひきつける、ヴァラエティに富んだ作品には目を瞠らされる。手掛けた装丁は2,000冊余り。彼はいつも作品をすべて読了してからデザインをしたという。そのとおり、小説の作品世界を端的に且つ暗示的に表現しながら、読者が自由に想像力を働かす余地を残している。アート・ディレクターの職を辞した後、絵本作家となったが、彼の信条は変わらない。絵本の判型はすべて正方形、使われる色彩は6色のみ、考え抜かれたうえで描かれた黒い輪郭線。極限に単純化された線にはかすかに震えるような手の跡が見え、ミッフィーたちのわずかな表情の変化さえも描き分けている。「デザインはシンプルであることが一番大事。完璧であるだけでなく、できるだけシンプルを心がける。そうすれば見る人がいっぱい想像できるのです。これがわたしの哲学。」これはブルーナの言葉。うさぎ年生まれの彼に、これからもまだまだ頑張ってほしい。[竹内有子]

2011/05/11(水)(SYNK)

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日本のデザイン2011──Re:SCOVER NIPPON DESIGN デザイナーが旅する日本。

会期:2011/04/22~2011/06/05

東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]

活躍中の3人のデザイナーが、若手写真家とともに旅に出る。森本千絵氏は、浅田政志氏と兵庫県篠山市へ。山中俊治氏は、鍵岡龍門氏と鹿児島県種子島へ。そして梅原真氏は、広川智基氏と秋田県秋田市へ。いずれの旅へも藤本智士氏(今回の企画のディレクター)がアテンドする。旅の起点は最初に決めるが、なにをするか、そこからどこへ行くかはなりゆき次第。都会の手法を地方に持ち込んで地域を活性化する、というプロジェクトではない。地方の異なる文化を都会に持ち帰ろう、というものでもない。デザイナーたちがなにを見ているのか、なにを見つけ出すのかを追うことが目的。それを写真家がカメラで追い、藤本氏がテキストに記録する。
展示されているのは、写真とテキストといくつかのお土産。すなわち旅のアルバムである。このアルバムを本や雑誌の記事としてではなく、デザインハブの展示会場で「読む」。天井から吊された透明なシートに写真とテキストが配されているが、これがとても効果的だ。アルバムの中に入り込んで、デザイナーたちの旅を追体験しているかのようである。
地方あるいは外国を訪れ、異なる環境に身を置き、知らないなにかを見つけたり、あるいは自分の所属するフィールドの価値を再確認するという作業はべつに新しいものではない。それでもさまざまな旅の記録が存在するのは、共に旅をしていないわれわれにとっても異なる視点に触れる楽しみがそこにあるからである。デザイナーと写真家、ディレクターとの出会いからも新しいコミュニケーションが生じる。それらが旅における場や人、モノとの出会いと複層的に関わり合っているから、3つの旅はそれぞれが独自で、それぞれが面白い。デザインハブで限られた観覧層にのみ公開するのはなんともぜいたくな企画である。[新川徳彦]

2011/04/26(火)(SYNK)

ジャケ買いのビガク──誘惑するジャケットデザイン

会期:2011/04/10~2011/05/08

世田谷文化生活情報センター「生活工房」[東京都]

「ジャケ買い」とは、音楽と無関係に、ジャケットデザインの好みだけでレコードやCDを購入すること。展示はふたつの企画で構成されている。ひとつは「ジャケ買い」ドキュメンタリー。アートディレクターの伊藤桂司、森本千絵の両氏がレコードをジャケ買いする。買ったレコードは互いに交換され、それぞれが曲を聴いて新たなジャケットをデザインする。相手に渡されるのはレコード盤のみで、元のジャケットデザインは参考にしないというルール。会場にはオリジナルのジャケットと新たにデザインされたジャケットが並べて展示され、またジャケ買いからデザインまで、両氏の姿を追った映像作品が流されている。
もうひとつは「ジャケ買い」体験。企画に参加したグラフィックデザイナーたちがジャケ買いしたレコードが展示されている。そればかりではない。ディスクユニオンの協力を得て、会場には2,000枚のレコードが用意されている。会場を訪れた者は、ラックの中から好きなジャケットデザインを選び、側に設置されたプレーヤーでそのレコードを試聴できる。つまりここではジャケ買いを疑似体験できるのだ。この企画はとてもスバラシイ。
アナログレコードからCD、そしてデジタル配信へと音楽メディアや流通形態が変化し、また音楽を聴く場も変わってきた。はたしていまの若者たちは店頭に足を運び、音楽を「ジャケ買い」することはあるのだろうか。二十歳前後の学生に「ジャケ買い」経験の有無を聞いてみた。150名のうち、経験アリは60名。ジャケ買い対象のほとんどはCDで、レコードと答えたものは1名のみ。本やDVDをジャケ買いするという者もいる。そしてジャケ買いの結果が「アタリ」だったという者は半数強。「ハズレ」も少なくないらしい。よくジャケ買いするという学生は「たいていがハズレだが、そのぶんアタリだったときの喜びが大きい」とコメント。なるほど、メディアは変わってもジャケ買いの「ビガク」は健在のようだ。[新川徳彦]

2011/04/18(月)(SYNK)