artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
高田冬彦「MY FANTASIA」
会期:2013/11/30~2013/12/28
児玉画廊[京都府]
高田冬彦は首都圏で活躍する作家だが、関西では本展が初お目見えだった。そして特大のインパクトを関西の美術ファンに残した。彼の作品は、彼自身が何者かに変装してパフォーマンスを行ない、その模様を映像や写真で記録したものだ。本展では、臀部に食虫植物を生やしてベートーヴェンの田園交響曲を指揮しながらパカパカと股を開く《VENUS ANALTRIP》や、女学生姿&恍惚の表情でワルツを舞いながら盛大なスカートめくりを繰り広げる《MANY CLASSIC MOMENTS》、日本列島の形をした男根を生やしたヤマトタケルが室内で暴れまわる《JAPAN ERECTION》、そして、歴史的に著名な女性たちの首をトーテムポール状に積み上げる様子を記録した《WE ARE THE WOMEN》(新作)が出品された。これらの作品は、表面的にはナルシシストの変態による悪ふざけにしか見えないであろう。しかし実際のところは、人間の深奥に潜む業を引きずり出す行為であり、道徳や倫理、善悪では判断しえない境地を垣間見せることである。それはまるで、真にクリエイティブなものを生み出すためには、常に自らをギリギリの地点にさらさねばならないと訴えかけているかのようであった。
2013/11/30(土)(小吹隆文)
フェスティバル/トーキョー13 F/T13イェリネク連続上演 光のない。(プロローグ?)
会期:2013/11/21~2013/11/24
東京芸術劇場シアターイースト[東京都]
F/T13の小沢剛が演出した「光のない。(プロローグ?)」は、展覧会、インスタレーション、映像、音楽、演劇などのジャンル分けが揺らぐ体験だった。テキストがさまざまな媒体に刻まれ、ついに言葉を介しない奴が現われる。有名なSF映画も想起させながら。追い立てられる羊のように観客は動き、劇場がいつもと違う場に変容していた。
2013/11/24(日)(五十嵐太郎)
キャリー
会期:2013/11/08~2013/12/12
丸の内ピカデリー[東京都]
高畑勲監督の『かぐや姫の物語』で欲求不満だったのは、都から脱走したかぐや姫が着物を脱ぎながら山中を疾走する、あの胸騒ぎを覚えずにはいられないシーンが、結局のところかぐや姫の見果てぬ夢だったことだ。これまでにないアニメーションによってこれまでにないかぐや姫の物語が語られるのかと思いきや、あくまでも原作に忠実なまま物語は終わってしまった。荒々しい線が力強く躍動する画に眼が釘づけにされただけに、期待が外れたショックは大きい。
その萎えた気持ちを再び漲らせたのが、本作だ。スティーブン・キングの原作と、1976年にブライアン・デ・パルマ監督によって制作された映画を踏襲してはいる。しかし『かぐや姫の物語』と決定的に異なるのは、主人公の人間像である。
陰湿なやり方で同級生にいじめられている高校生のキャリーは、家庭でも狂信的な母親から虐待され、八方塞がりのなか幸いにも恵まれた超能力を研ぎ澄ますことで、大逆襲をはかる。物語の終盤で一気に爆発する暴力は、思わず拍手喝采を送りたくるほど痛快である。同じく悲劇的なヒロインとはいえ、ひたすら耐え忍ぶかぐや姫とは対照的に、キャリーは少なくとも反撃したのだ。
堅忍不抜の内向性と窮鼠噛猫の外向性。前者の精神性が現代の日本社会にいまだに残存する美学であることは否定できないにしても、注目したいのは双方の悲劇の背景にはいずれも親が介在しているという事実である。信仰を重んじるあまりキャリーの行動を束縛する母親が常軌を逸していることは言うまでもない。ただ、かぐや姫の上洛に狂喜乱舞する翁もまた、その真意とは裏腹に、かぐや姫の自由と人生を縛りつけている点で、キャリーの母親と同じ狂気を共有している。2人の対照的な娘は、ともに狂った親に翻弄されるという面で、表裏一体の関係にあるのだ。
双方の悲劇に通底する現代性があるとすれば、それはこの親子のあいだの支配関係に表わされていると言えるだろう。
2013/11/21(木)(福住廉)
プレビュー:iTohen開設10周年記念作品展
会期:2013/12/11~2013/12/28
iTohen[大阪府]
大阪市北区のiTohenは、2003年12月に開業したスペースで、書店、ギャラリー、デザインオフィスが融合した形態となっている。扱うジャンルは多様だが、ファインアートとコマーシャルアートの中間領域を積極的に取り上げるのが特徴だ。関西では2000年代の初頭に同様のスペースが数多く誕生したが、月日とともに淘汰された。iTohenはアーティストと観客双方から信任を得た幸福な一例と言える。彼らが、開設10周年を記念した展覧会を開催する。内容は、過去に展覧会を行なった作家たちの小品展だ。画廊の軌跡を振り返りつつ、ギャラリーというシステムの今後を考える場としたい。
2013/11/20(水)(小吹隆文)
龍野アートプロジェクト2013 刻(とき)の記憶
会期:2013/11/15~2013/11/24
ヒガシマル醤油元本社工場、龍野城、聚遠亭、他[兵庫県]
兵庫県南西部に位置する、たつの市の城下町を舞台に行なわれたアート・イベント。3年目の今年は、過去2回の出品者に、ミロスワフ・バウカ、松井智惠、さわひらきを加えた21作家が出品。醤油会社の元工場や資料館、古民家、龍野城、図書館、カフェなどで展示が行なわれた。今年は全国各地で大規模な地域型アートイベントが行なわれたが、「龍野~」は、規模や知名度の点で決してメジャーとは言えない。しかし、作品・展示・ホスピタリティが上質で、歴史ある城下町の魅力も手伝って素晴らしい仕上がりとなった。「瀬戸内」や「あいち」と比べても、決して引けを取っていないと思う。来年以降の予定は不明だが、願わくば継続してほしい。現在のレベルで回を重ね、適切な広報活動を行なえば、きっと地域の文化資産になるはずだ。
2013/11/17(日)(小吹隆文)