artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
選挙2
想田和弘の観察映画『選挙2』を見る。2011年4月、東日本大震災直後の川崎市議選において、誰も原発を争点にしないことに怒りを覚え、かつて自民党から出馬した山内和彦が再び立ち上がるというものだ。とりわけ、最終日に初めて行なった街頭演説で、「山さん」が、僕に票を入れなくてもいいから、みなさん選挙に行ってくださいと訴えるシーンが印象的だった。基本的にはコミカルな映画でもあるが、監督の想田和弘の論考「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」(『世界』2013年6月号)を読んだ後だと、公であるはずの選挙なのに、自民党候補者の撮影拒否、そして市議選の状況や結果も、恐ろしいものに思えてくる。2年前の出来事なのに、まさにいまの日本を予言的に描いた映画のようだ。
2013/07/19(金)(五十嵐太郎)
ソフィ・カル「最後のとき/最初のとき」
会期:2013/03/20~2013/06/30
原美術館[東京都]
原美術館のソフィ・カル「最後のとき/最初のとき」展を訪れる。1階は、生まれて初めて海を見る瞬間の、イスタンブールの人たちの映像。ここにその印象を語る言葉はない。振り向いた後の表情だけを示す。そして2階は、盲人たちに最後に見たイメージの記憶を語らせる。再現はできないが、そのイメージ写真と本人の肖像と文字の組み合わせが、想像力をかきたてる。いずれも表象の不可能性というべきものに肉迫しようとする作品だ。
2013/06/21(金)(五十嵐太郎)
クロユリ団地
『クロユリ団地』は、J.ホラーの進化形ではなく、罪悪感と時間をめぐる悲劇だった。驚かすことや怖がらせることよりも、精神に重苦しく、長く訴える。映画の最初、主観視点で各部屋をなめまわすシーンが不自然だと思ったら、なるほどきちんと論理的に撮影されている(ネタバレになるので書けないが)。前田敦子の演技が思いの外、よい。それにしても筆者が暮らす仙台の宿舎が、ここの団地にとても似ていることが一番嫌だった。
2013/06/01(土)(五十嵐太郎)
オブリビオン
映画『オブリビオン』を見る。現実とは異なる世界観をつくり出す、ミッドセンチュリーの未来版のような建築のテイストや美術も好みだが、それらのデザインも含めて、新しい時代の映画というよりは、これまでのSFの遺産を巧みにつなぐ集大成的な作品だった。プロコル・ハルムの懐メロも僕にはぐっとくるが、2017年の宇宙飛行士が聴くだろうか。主人公が選ぶ最後の選択は、ちょっとハリウッド的ではなく、日本的な感じである。
2013/06/01(土)(五十嵐太郎)
めめめのくらげ
村上隆の映画『めめめのくらげ』を見る。キャラたちのかわいさと見事な動きは狙ってもなかなかできないと思うし、アメリカ映画と違うオリジナリティを持った完成度の高い映像表現だ。完全アニメではなく、実写との融合で着実な成果をあげている。子役もいいし、ジュブナイルとの相性もとても素晴らしい。ただ、「あえて」の昔ながらのお約束設定なのだろうが、黒マントを着用した悪役・科学と宗教の見せ方にはのれなかった。
2013/05/30(木)(五十嵐太郎)