artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
あいちトリエンナーレ2013 映像プログラム「短編2 若人の大地」
会期:2013/10/12
あいちトリエンナーレの映像プログラム、短編集「若人の大地」を見る。ぬQの「ニュ~東京音頭」、室谷心太郎「平成アキレス男女」、加藤秀則「あの日から村々する」など、震災後の世界を意識しつつも、笑いを伴う作品を集めたものだ。姫田真武の作品「ようこそぼくです」の音、色、強烈な自己愛はクセになりそう。夜に上映されたパールフィ・ジョルジの「ファイナル・カット」は、映画450本の引用のみで構成された作品である。恋、ケンカ、目覚め、別離、結婚、死闘など、テーマごとにお決まりの場面をつないでいく。ステレオタイプな物語として再編集された映画史である。地下二階の展示、編集と音の文法を逆利用したニコラス・プロヴォストの映像と比べて鑑賞するのも興味深い。
2013/10/12(土)(五十嵐太郎)
あいちトリエンナーレ2013 映像プログラム 土本典昭『原発切抜帖』/濱口竜介+酒井耕『なみのおと』
あいちトリエンナーレ2013の映像プログラムを2本鑑賞する。『原発切抜帖』と『なみのおと』の2本立てで、前者は原発に関する実験的な作品、後者は津波に関するドキュメンタリーであり、今回のあいちのテーマに最もダイレクトに関わりをもつ作品だった。土本典昭の『原発切抜帖』(1982)は、公式取材が拒否され、新聞記事の再構成だけで映像を成立させる作品。冒頭、1945年の原爆投下翌日の記事の扱いの小さいことにまず驚く。チェルノブイリ前の作品なので、むつやスリーマイルの話が多いが、その対応、発表、報道の迷走ぶりは現代とあまりに同じで再度驚く。『原発切抜帖』は、3.11以後にその意味が復活し(ニナ&マロアンの作品において黒澤明『生きものの記録』を現状に照らし合わせたように)、またネット時代を迎え、新聞メディアの意味を再考させる作品としても新しい意義を獲得している。ゲストトークでは正木基が、この作品を読みとく背景やほかの原爆映像などを紹介した。
濱口竜介+酒井耕『なみのおと』(2011)は、岩手の田老から福島の新地まで南下しながら被災者の語りを記録する映画。個人的に、ポスト震災のドキュメンタリーとして最も興味深い作品だった。被災地の風景映像は移動時のみで、ごくわずか。資料映像もなく、正面ショットの語りだけで、142分。しかし、『なみのおと』が退屈だと感じる瞬間はなかった。被災者の語りに耳を傾け、その表情と仕草から起きた出来事、彼らの失われたふるさとを想像させるからだ。特にかけがえのない友を失った南三陸の女性、家ごと流され九死に一生を得た東松島の夫婦、何気ない風景の思い出を愛おしく語る新地の姉妹。筆者はおそらく通常の鑑賞者とは違い、『なみのおと』に登場するすべての被災地を歩いている。例えば、田老、気仙沼、南三陸、東松島の野蒜、相馬の新地である。ゆえに、野蒜や新地を荒涼とした状態でしか見ていなかったが、彼らの記憶をめぐる語りを聞きながら、あの風景に色がつき、意味が充填していく。映像の外側にあるものを思い出していた。
2013/09/29(日)(五十嵐太郎)
「T」大崎のぶゆき
会期:2013/09/17~2013/09/28
galerie 16[京都府]
水溶性の紙にペイントし、水の中に浸してイメージが溶解・崩落する様を撮影した映像作品や、壁紙の模様が溶け落ちる映像作品で知られる大崎のぶゆき。昨年に大阪で開催した個展では自分自身を題材にして「記憶」という要素を加味したが、本展ではその発展形とも言うべき新作が展示された。それは、友人Tに子ども時代の記憶を取材し、大崎自身がTの記憶をトレースするというものだ。具体的には、取材で聞き出した場所に実際に出かける、インターネットで情報を収集するなどの行為を行なったが、その過程で浮き彫りになったのは、Tの記憶が極めて曖昧なことだった。つまり人間の記憶はリアルとフィクションがミックスされているのである。作品は、Tから提供された記憶にまつわる写真、関連する物体、大崎の映像とスチール写真で構成されていた。リアルとも、フィクションとも、その両方とも言い難い作品世界を見ていると、はなはだ不安定な浮遊感に襲われる。しかし、その感覚は不快ではなく、むしろ甘美さを伴っているのだ。この両義的な感覚こそが本展の核心であろう。
2013/09/17(火)(小吹隆文)
図書館戦争
映画『図書館戦争』(監督:佐藤信介、原作:有川浩)は、期待しなかった分、意外に楽しむことができた(これも意外とちゃんとしていた戦闘シーンは少し長過ぎか)。メディア良化法が施行され、図書館が表現の自由をめぐる戦場となったパラレル日本。荒唐無稽な設定かと思われたが、小説やアニメで以前に鑑賞したときに比べて、現実の日本は少しこの状態に近づいたかもしれない。ちなみに、磯崎新による北九州の図書館と美術館が主要な舞台に使われている。
2013/09/12(木)(五十嵐太郎)
少女と夏の終わり
会期:2013/09/21
ポレポレ東中野、名古屋シネマスコーレ[東京都、愛知県]
石山友美のデビュー作となる映画『少女と夏の終わり』を見る。テクノスケープや開発も入り込む山間部を舞台とする2人の少女が主人公だ。そして村人のコミュニケーションの潤滑油としての噂が物語をドライブさせる。対照的だが、仲よしの女子中学生が心と身体のズレから揺れ動き、ひとつの嘘が発せられたことを契機に、最後はそれぞれにとって意外な居場所を見つける。少女から女になっていく夏の終わりが、瑞々しく描かれる。
2013/09/12(木)(五十嵐太郎)