artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

劇場版タイムスクープハンター─安土城 最後の1日─

会期:2013/08/31

新宿ピカデリー[東京都]

天皇や武将による大文字の歴史ではなく、名もなき庶民による小文字の歴史。テレビドラマ「タイムスクープハンター」が画期的なのは、前者の歴史観に呪縛された従来の大河ドラマや時代劇とは対照的に、後者の歴史観をみごとに映像化したからだ。ほとんど無名の役者を採用し、手持ちのカメラで撮影した臨場感のある映像には、白々しいセットと大仰で華美な着物、そして不自然極まりない大立ち回りで粉飾された時代劇には望めない、歴史の入口がある。
本作は、そのテレビシリーズの映画版。映画ということも手伝って、いつも以上に有名な役者やお笑い芸人が出演していたが、これが無名の役者によるリアリズムと、タイムワープによって歴史の真相を解明するというフィクションのバランスを著しく欠いていた面は否めない。ただ、そうだとしても、歴史の無名性を鮮やかに浮き彫りにするという本作の本質的な魅力は損なわれていなかったように思う。
何より素晴らしかったのは、博多の商人で茶人の島井宗叱を演じた上島竜兵である。物語のキーパーソンである小男を、彼以外では考えられないほど、みごとに演じた。映画の全体が上島竜兵に始まり、上島竜兵で終わったと言っても過言ではない。
翻って美術の現場に眼を転じたとき、アウトサイダーアートをはじめとする、大文字の美術を解きほぐす脱構築の試みは数々あったにせよ、「タイムスクープハンター」のような優れた視覚表現と比べてみれば、いずれも不十分と言わざるをえない。こう言ってよければ、アウトサイダーアートの限界は、「アウトサイダーアート」という冠によって、その質が正当に評価されにくい点にあるからだ。だが、本作が上島竜兵という突出した才覚に恵まれた役者によって支えられていたように、無名性の美術といえども、いや、だからこそ、その内実の質が厳しく問われなければならないのではないか。

2013/09/12(木)(福住廉)

スター・トレック イントゥ・ダークネス

会期:2013/08/23

映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』を見る。派手なアクションもありつつ、でもSF的なギミックではなく、人間ドラマの力で最後まで物語の推進力を維持していた。9.11のテロや福島の原発事故を連想させるシーンもある。人類を襲うカーンはもっと強烈なキャにもなりえたかもしれない。モダニズムをベースとした建築だが、リチャード・マイヤーが設計したゲティ・センターが本部になっていた。

2013/08/29(木)(五十嵐太郎)

パシフィック・リム

会期:2013/08/09

『パシフィック・リム』を見たが凄い。日本の怪獣映画とSFアニメの歴史的遺産をアメリカが実写化している。これは日本映画の予算だとできないだろうが、勝手なアメリカナイズでなく、もとの戦後日本のサブカルチャー文化へのリスペクトも感じる。ここまで監督が好きなことをやりきったら、細かいケチをつけるのは野暮というもの。ただ、爬虫類のようになったハリウッド版のゴジラでもそう思ったのだが、「パシフィック・リム」も、怪獣の造形が着ぐるみ的なものから離れていくのは仕方ないにしても、日本とはだいぶ異なる(エヴァにおける使徒のデザインのようなエッジもない)。日本とアメリカで、どうも怪獣のイメージが違うことは興味深い。

2013/08/20(火)(五十嵐太郎)

プレビュー:奈良・町家の芸術祭 HANARART2013

会期:2013/09/07~2013/11/26

会場:五條新町(9/7~16)、御所市名柄(9/14~16、一部作品は9/7~16)、八木札の辻(9/20~29)、今井町(9/27~10/6)、郡山城下町(10/12~20)、宇陀松山(10/20~27)、奈良きたまち(11/1~10)、桜井本町(11/16~26)[奈良県]

奈良県内に数多く残る伝統的な家並みや町家と斬新なアート作品を組み合わせる、まちづくり型現代アートイベント。今年も県内8カ所を会場に少しずつ時期をずらして開催されるが、その内容は昨年とは大きく異なる。まず、キュレーターを公募する企画展「HANARARTこあ」は、郡山城下町1カ所での開催となり、奥中章人、サラスヴァティ、銅金裕司の3組が選出された。ちなみに「こあ」の審査を行なったのは、中井康之(国立国際美術館主任研究員)である。次に、アーティストが自主的に参加し展覧会やイベントを行なう「HANARARTもあ」。こちらは昨年と同様だ。そして3つ目が、アーティストが会場に長期間滞在して制作と展示を行なう「HANARARTえあ」で、国内作家はもちろん、フランス、台湾、タイの作家も参加している。「HANARART」は日程と会場が分散しているため、すべてを見届けるのは難しい。その代わり、どのエリアに出かけてもアートと地域の魅力を体感するだろう。ちなみに筆者自身が注目しているのは、やはり郡山城下町である。

2013/08/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:映画をめぐる美術─マルセル・ブロータースから始める

会期:2013/09/07~2013/10/27

京都国立近代美術館[京都府]

詩人として出発し、後に言語とイメージの関係を問う幅広い創作活動を行なったベルギー出身の芸術家マルセル・ブロータース(1924~1976)。本展では、彼と後進の作家たちの作品を通して、映画をめぐる美術家の多様な実践を紹介する。出品作家は、ブロータース、アンリ・サラ、シンディ・シャーマン、田中功起、アナ・トーフ、やなぎみわ、ミン・ウォンなど12名。彼ら彼女らの、フィルム、写真、ビデオ、インスタレーション作品が、「Still/Moving」「音声と字幕」「映画のある場」など5つのテーマに基づいて展示される。

2013/08/20(火)(小吹隆文)