artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

キュレーターからのメッセージ2012 現代絵画のいま

会期:2012/10/27~2012/12/24

兵庫県立美術館[兵庫県]

現代における絵画の諸相を、14作家の仕事で紹介している。作品傾向はバラエティに富み、いわゆるタブロー(居城純子、渡辺聡、彦坂敏昭、丸山直文、横内賢太郎、奈良美智、法貴信也)から、超大作(平町公)、壁画(野村和弘)、映像を駆使したもの(大﨑のぶゆき、石田尚志)、その他(和田真由子、三宅砂織、二艘木洋行)と、実にさまざまだった。また、いわゆるタブローとグルーピングした作家も、その作風には多様性が見られた。質の高い作品が揃ったので見応えがあり、現代の多様な状況が窺える展覧会だったのは確かだ。ただ、同種の企画展にありがちなことだが、総花的な紹介に終始し、明瞭に「現代絵画とは〇〇だ」というような見解が示されることはなかった。それが非常に困難なことは理解しているが、今、あえてそこに踏み込む勇気を見せてほしいとも思った。

2012/10/26(金)(小吹隆文)

石橋義正『ミロクローゼ』

会期:2012/11/24より劇場公開

テアトル梅田[大阪府]

登場人物がすべてマネキンのショートドラマ『オー!マイキー』で知られる石橋義正監督、山田孝之主演の『ミロクローゼ』の試写会。3つのラブストーリーで構成されているのだが、それぞれの物語は、少しずつ時空が重なりながら展開し、ひとつの長編ドラマをつくっている。カット割りがテンポ良くリズミカルで、畳み掛けるようなセリフや物語のスピード感とそれがピタリと止む“まったり”感のメリハリも、一人で三役を演じ分ける山田孝之の見事な演技も、ポップなヴィジュアルイメージやファッションも刺激的。石橋義正ワールド炸裂といった感のある見どころの多い映画だ。この日は監督の舞台挨拶もあったのだが、構想から公開までには8年近く、(関西での)公開までには10年近くも年月がかかったとのこと。『オー!マイキー』のファンでなくても楽しめる映画。11月24日から劇場公開される。

2012/10/18(木)(酒井千穂)

プレビュー:駄作の中にだけ俺がいる

会期:2012/11/10

ユーロスペース[東京都]

いつの頃だったか、小説家の遠藤周作が自宅の食卓を紹介する雑誌記事で、夫人とともに白米と味噌汁とめざしという絵に描いたような清貧の食卓を撮影させていたことがあった。あれは、どう考えても雑誌のための意図的な演出だったのではないかといまでも訝っているが、この話を思い出したのは、会田誠のドキュメンタリー映画があまりにも中庸な家族を映し出していたからだ。
アーティストという職業が特殊であることは疑いないとはいえ、子どもの教育問題に思い悩む妻や、それを横目に仕事に打ち込む夫という家族風景は、凡庸といえば凡庸である。映画では息子の問題児ぶりが強調されていたが、問題の程度で言えば、まだまだ生易しいし、もっと激烈で非道な幼少期を過ごした大人はいくらでもいる。
そうすると、もしかしたらこの映画のなかの会田家は、かつての遠藤周作のように作為をもってつくられた家族像なのではないかと裏を読みたくもなる。つまり会田誠は平凡な家族像ですら身を持って絵に描くことで、とんでもなく恐ろしく、恥ずかしい、身も蓋もない裏側の世界を隠しているのではないか。
だが、よくよく考えてみたら、そのようにして意味を過剰に読み取らせることをもっとも得意としてきたのが、会田誠その人だった。バカなふりして油断させて批評的な一撃を加えたり、そうかと思って警戒すると、ほんとうにバカなだけだったり。このような両面性が会田誠の魅力だとすれば、このドキュメンタリー映画は、良くも悪くも、会田誠の一面を見せることには成功していると言えるだろう。

2012/10/10(水)(福住廉)

ニュイ・ブランシュ KYOTO 2012

会期:2012/10/05

京都国際マンガミュージアム、アンスティチュ・フランセ関西、ヴィラ九条山、吉田神社、京都芸術センター、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、地下鉄烏丸御池駅、常林寺、京都市内のギャラリー[京都府]

「ニュイ・ブランシュ」とは、フランス・パリで毎年10月の第1土曜日夜から翌朝にかけて行なわれる現代美術の祭典のこと。その京都版として昨年から始まったのが、この「ニュイ・ブランシュ KYOTO」だ。今年は、美術館、画廊、アートセンター、駅、寺社など17会場がエントリー。規模の大きさは本家と比べるまでもないが、昨年の4会場と比べたら大幅な拡大だ。正直、会場を訪れるまでは一種の外国かぶれと思っていた筆者だが、いざ出かけてみると、平日夜の画廊に多くの人が訪れている様子を見て評価が変わった。普段はアートとの接点が少なそうな人たちも大勢来ていたし、あちこちで自然と歓談の輪が広がっていたからだ。予算や運営面等の裏事情は知らないが、きちんと育てればきっと風物詩的なイベントになるだろう。他エリアでも真似をしたらいいと思う。

2012/10/05(金)(小吹隆文)

人生、いろどり

会期:2012/09/15

シネスイッチ銀座[東京都]

「葉っぱ」で年商2億を成し遂げた実話をもとにした劇映画。徳島県上勝町を舞台に、おばあちゃんたちが自発的に新商売に踏み出した無謀な試みと挫折、そして成功の物語を描く。それぞれ性格の異なる役柄を演じた吉行和子と中尾ミエ、そしてとりわけ富司純子の演技がすばらしい。限界集落や老人といった現代社会の周縁が叛乱するという痛快な物語もおもしろい。
だが、この映画を凡百のサクセス・ストーリーから明確に一線を画しているのは、それが登場人物の内側に広がる陰を巧みに描写しているからだ。女社会に率先されることをよしとしない男社会の家父長的な面子、女社会のなかでも決して他人に明かせない恥の意識。心の奥底に本音を畳み込みながら、それぞれ男社会と女社会に帰属することで保たれる共同体の均衡。この映画の視点は、かねてから日本社会の秩序を再生産してきた自己の内部と外部に通底するこの「制度」を、外側から是非を問うのではなく、あくまでも内側から生環境として描くリアリズムに置かれている。
かたちこそ異なるとはいえ、都市社会における共同体の条件もこれとおおむね大差ないことを考えると、成功するにせよ失敗するにせよ、私たちが生きるうえで格闘しなければならないのは、他者を蹴落とすマネーゲームのルールなどではなく、みずからにまとわりつくこの暗い陰なのだ。その陰があってこそ、彩りが鮮やかに輝くことを描いた傑作である。

2012/10/01(月)(福住廉)