artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
ママ/Mama
[アメリカ]
機内にて、ギレルモ・デル・トロ制作の映画『ママ/Mama』を見る。山の中に置き去りにされた幼い姉妹が5年後、野生児になった状態で発見され、奇跡の生還をするものの、何かが憑いているという物語。彼らがサバイバルした状況を想像力豊かに示す、子どもの絵が映されるタイトルバックがいい。映像表現には、J.ホラーのテイストも感じられる。また姉妹の選択は、『おおかみこどもの雨と雪』のホラー版的な展開と言えるかもしれない。
2013/05/24(金)(五十嵐太郎)
伊東宣明“芸術家”
会期:2013/05/21~2013/06/02
Antenna Media[京都府]
かつて就職した企業でスパルタ研修を受けた経験がある伊東が、その記憶をもとにつくった作品を発表した。会場1階には美術史に名を残す巨匠10名が残した金言と、彼らの代表作をトレースした平面作品が並んでいる。そして傍らには、海岸の岩場に立ち金言を絶叫する伊東を捉えた映像作品が。続く2階では、伊東が教官になり、女性アーティストを精神的に追い込みながら先ほどの金言を教え込んでいた。伊東によると、こうした企業研修は外側から見ると異常さが際立つが、実際に体験すると達成感や満足感で得も言われぬ感動に満たされるそうだ。また、人間を型にはめる点では、方法論こそ違えど企業も美術大学も同じだという。制度と人間の関係を問う、非常に考えさせられる作品だった。
2013/05/21(火)(小吹隆文)
花田恵理 展“Open spaces”
会期:2013/05/07~2013/05/12
KUNST ARZT[京都府]
白地に丸く抜かれた風景が印刷されたDMを見て本展に出かけたら、まったく同じ情景と遭遇した。ギャラリーの壁が3カ所にわたり切り抜かれていたのだ、そのうち2カ所は円形の穴から近隣の風景が見え、1カ所は長方形の穴から壁の向こうに隠されていた床の間の痕跡が窺える。どうやら花田のテーマは、場の本質を明らかにしたり、新たな意味づけを行なうことらしい。それは、パブリックな場所で鬼ごっこする過去作品の映像からも明らかだ。彼女はまだ美大に在学中とのことだが、すでに独自のスタイルを確立しつつある。今後の展開を楽しみに待ちたい。
2013/05/07(火)(小吹隆文)
ヒカリエイガ
会期:2013/05/06
渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール[東京都]
昨年、渋谷駅東口の東京文化会館跡地に建設された複合商業施設「ヒカリエ」。本作は、その一周年を記念して製作された短編オムニバス映画で、9人の映画監督がヒカリエを舞台にそれぞれ物語を描いた。プロデューサーはドキュメンタリー映画監督の本多孝義。商業施設が主導して製作した映画自体珍しいが、その中身もそれぞれ面白い。
ありていに言って、商業施設と芸術の相性はあまりよくない。店舗などを活用した展覧会の場合、広告ディスプレイを阻害する美術作品は歓迎されないことが多いし、たとえ展示が許されたとしても、それらはおおむね広告の空間に埋没しがちである。美術の自立性は、ほとんどの場合、消費のための空間においては通用しないのである。
ところが、本作では商業施設と芸術の幸福な関係性を見出すことができた。というのも、本作には商業施設が敬遠しがちな外部や他者が正面から描写されていたからである。例えば『元気屋の戯言 マーガレットブルース』(元気屋エイジ監督)では「ヤクザ」、『私は知ってる、私は知らない』(澤田サンダー監督)では「幽霊」、『Make My Day』(完山京洪監督)では「(化粧品売り場における)怪しい男性客」などが物語を構成する重要な登場人物として描写されている。とりわけ、『SAMURAI MODE~拙者カジュアル~』(堀井彩監督)では「侍」や「オタク」が登場するばかりか、見方によってはショップ店員を揶揄しているように見える演出すらある。ようするに、この短編オムニバス映画には、ヒカリエに一貫しているおしゃれなイメージを損ないかねない要素がふんだんに盛り込まれているのである。
映画であろうと美術であろうと、外部や他者を欠落させた表現は退屈である。表現が到達するリーチが必然的に短くなるし、表現が内蔵するひろがりを殺してしまうからだ。とりわけ『Make My Day』は、化粧品売り場にとっての外部以外の何者でもない男性客をユーモラスに描写しながら、同時に、化粧する女性販売員の内側を巧みにあぶり出した。見終わったあと、不思議と幸福な心持ちになるほどの快作である。
本作は、企業イメージの向上ばかりを性急に求める企業メセナの現状に対する、ひとつの批判的かつ生産的な提案として評価できる。
2013/05/06(月)(福住廉)
歩く男
会期:2013/04/20~2013/05/11
CAS[大阪府]
主題や対象を外側から眺めるのではなく、作者自身が主体的に作品世界に飛び込むアーティストたちをピックアップした展覧会。出品作家は、林勇気、山村幸則、白石晃一の3名。キュレーターは東京造形大学准教授の藤井匡だ。林はテレビゲームを思わせる横方向のスクロールが印象的な映像作品と、2つの映像の組み合わせからなる新作を発表、山村は神戸牛の子牛に海を見せるべく神戸の市街地を山から海、海から山へと歩き回る近作を出品し、白川はレインボーカラーの洗濯バサミや結束バンド、スーパーボールでビル屋上にインスタレーションを構築した。正直、自分が企画意図を正しく理解できているのかは心もとない。しかし、単体でも見応えがある作家たちが3名も集結したのだから、それだけで十分満足だ。
2013/04/28(日)(小吹隆文)