artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

展覧会ドラフト2013 Project ‘Mirrors'

会期:2013/02/05~2013/02/26

京都芸術センター[京都府]

批評家の高嶋慈と美術家の稲垣智子のキュレーションで2つの「稲垣智子個展」を開催し、編集者の多田智美が展覧会カタログを制作する、というのが本展の骨子だ。高嶋は稲垣の映像作品が持つ「同一性と差異、反復」に着目して展示を構成。稲垣は旧作をアレンジしたインスタレーションや、1年ごとに継ぎ足されて未来に続く映像作品など、過去と未来のつながりを意識した展覧会をつくり上げた。2つの展覧会を見比べると、美術家と批評家という立場の違いが如実に感じられ、それだけで十分に興味深い。作品ごとで言えば、大量のケーキが並んだテーブルと、男性が女性の唇を舐め続ける映像を組み合わせた《最後のデザート》、双子のような2人の女性(あるいはドッペルゲンガー)が口論し、最後はビンタの応酬となる《間─あいだ─》、観葉植物が収められた温室の奥に窮屈な姿勢で閉じ込められた女性がいる《Forcing House》が秀逸だった。

2013/02/05(火)(小吹隆文)

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鈴木先生

会期:2013/01/12

映画「鈴木先生」を見る。こうした学園ものにおいて、学校という閉鎖された空間は、しばしば社会、あるいは世界を意味するだろう。生徒会の選挙と卒業生の立てこもり事件を軸に、物語は回転していくが、その根底には完全に制御された社会、すなわち他者が排除された安全でクリーンな空間への違和感が表明される。拙著の『過防備都市』ともかぶる興味深いテーマだ。この映画は批判するだけではなく、未来への一歩を感じさせる救いもある。『桐島、部活やめるってよ』といい、『悪の教典』といい、今年度は学園ものの傑作が続く。日本ならではの状況かもしれない。

2013/02/01(金)(五十嵐太郎)

007スカイフォール

会期:2012/12/01

日劇[東京都]

アクション映画の敵役といえば、冷戦時代ならソ連、その後はイスラム諸国や中国、そしてロシアなど、いずれにせよアメリカを中心とした覇権的な構造から導き出されることが多かった。ところが、「007」シリーズの最新作に登場する敵は、MI6の元エージェント。組織に忠誠を誓って奉仕してきたにもかかわらず、組織に裏切られ、復讐の鬼と化してMI6を恐怖と危機に陥れる。いわば身から出た錆だが、そのような敵対性のありようが、外部に敵を対象化することのできない今日の複雑な政治的リアリティーと同期していたように思えた。ラビリンスのような上海や退廃的で甘美なマカオなどの映像はたしかに美しい。しかし、この映画の醍醐味は、その映像美も含めて映画の全編に漂っている、言いようのない哀愁感である。それが、時代の趨勢から取り残されつつあるボンドやMの衰退に起因していることはまちがいない。だが同時に、敵を内側に抱え込まざるをえない私たちの悲哀にも由来していたのではないだろうか。

2013/01/01(火)(福住廉)

スカイフォール 007

映画『スカイフォール』は、スタイリッシュな絵だった。内容としては、『007』シリーズ50年のレガシーを継承しながら、古くなったものを新しい時代に復活させることがテーマである。トルコ、上海、マカオ、軍艦島、スコットランドの風景描写も素晴らしい。特にテクノスケープ系におすすめである。以前から筆者もカッコいいと思っていた高架の道路の青い照明など、未来的な上海ブルーの表象が最高だった。また上海のガラスの摩天楼を舞台とした、人のシルエットや青っぽいクラゲの映像がリフレクションするなかでの戦闘シーンの美しさも忘れがたい。東京は、もはやアンティークではないかと、ふと思う。

2012/12/21(金)(五十嵐太郎)

溶ける魚 つづきの現実

京都精華大学ギャラリーフロール、Gallery PARC[京都府]

会期:2013/01/10~2013/01/26(Gallery PARCは01/20まで)
アンドレ・ブルトンが1920年代に発表した小説『溶ける魚』をタイトルに冠した本展。しかし、10人+1組の出品作家にシュルレアリストはいない。シュルレアリスムが誕生した時代背景──第一次大戦や経済恐慌で疲弊した20世紀初頭のヨーロッパ──と、東日本大震災、原発事故、長引く経済不況、不毛な政治などの状況を抱える現代の日本に奇妙な一致を感じた作家たちが、今自分たちがなすべきことを真摯に考え、『溶ける魚』以後(=つづきの現実)を提示する場として、自らの仕事を世に問うのだ。いささかものものしい説明になってしまったが、本展は近年京都で活発化しつつある若手美術家たちの自主企画のひとつとして注目に値する。衣川泰典、高木智広、荒木由香里、花岡伸宏、林勇気など、作家のラインアップにも期待が持てる。

2012/12/20(木)(小吹隆文)