artscapeレビュー
ヒカリエイガ
2013年06月01日号
会期:2013/05/06
渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール[東京都]
昨年、渋谷駅東口の東京文化会館跡地に建設された複合商業施設「ヒカリエ」。本作は、その一周年を記念して製作された短編オムニバス映画で、9人の映画監督がヒカリエを舞台にそれぞれ物語を描いた。プロデューサーはドキュメンタリー映画監督の本多孝義。商業施設が主導して製作した映画自体珍しいが、その中身もそれぞれ面白い。
ありていに言って、商業施設と芸術の相性はあまりよくない。店舗などを活用した展覧会の場合、広告ディスプレイを阻害する美術作品は歓迎されないことが多いし、たとえ展示が許されたとしても、それらはおおむね広告の空間に埋没しがちである。美術の自立性は、ほとんどの場合、消費のための空間においては通用しないのである。
ところが、本作では商業施設と芸術の幸福な関係性を見出すことができた。というのも、本作には商業施設が敬遠しがちな外部や他者が正面から描写されていたからである。例えば『元気屋の戯言 マーガレットブルース』(元気屋エイジ監督)では「ヤクザ」、『私は知ってる、私は知らない』(澤田サンダー監督)では「幽霊」、『Make My Day』(完山京洪監督)では「(化粧品売り場における)怪しい男性客」などが物語を構成する重要な登場人物として描写されている。とりわけ、『SAMURAI MODE~拙者カジュアル~』(堀井彩監督)では「侍」や「オタク」が登場するばかりか、見方によってはショップ店員を揶揄しているように見える演出すらある。ようするに、この短編オムニバス映画には、ヒカリエに一貫しているおしゃれなイメージを損ないかねない要素がふんだんに盛り込まれているのである。
映画であろうと美術であろうと、外部や他者を欠落させた表現は退屈である。表現が到達するリーチが必然的に短くなるし、表現が内蔵するひろがりを殺してしまうからだ。とりわけ『Make My Day』は、化粧品売り場にとっての外部以外の何者でもない男性客をユーモラスに描写しながら、同時に、化粧する女性販売員の内側を巧みにあぶり出した。見終わったあと、不思議と幸福な心持ちになるほどの快作である。
本作は、企業イメージの向上ばかりを性急に求める企業メセナの現状に対する、ひとつの批判的かつ生産的な提案として評価できる。
2013/05/06(月)(福住廉)